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エピローグー1

 七月七日の奇跡――。

 奇跡、なんて名前を付けると少し大げさ過ぎる気もするが、実際、俺たちにとってはそのくらいの出来事が起こった。

 西条さんが『百坂彩花』のことを覚えていたという事実。

 声が作れなくなっていた彩花にとって、それは、『きっかけ』としては十分すぎる出来事だった。


 翌日、彩花の声が戻った。


 彩花はすぐに仕事へ復帰し、あの日から一週間が経った今、既に普段通りの日々に戻っていた。

 北条さんが配慮しているのか、生放送やイベントなどはまだ控えているようだったが、SNSでアフレコの様子がアップされるなど、『声を作る仕事』も積極的に行っているらしかった。


 そして、もう一つ。


 これに関しては未だ、謎が解けないままなのだが、自宅からふれあい西家へ戻ってきた西条さんは、あの日のことが嘘のように帰宅願望が消えていた。

 あれだけ暴れていた人が何故、と誰もが疑問に思った。

このことをご家族に話したところ、曰く、毎年、この時期になると西条さんは孫の彩花のためにプレゼントを購入し、送っていたらしい。

 因果関係は分からないが、あの日、西条さんは確かに『何かを探していた』。

 自宅に戻り、ハッピーバースデーの飾りつけを見て、彩花への誕生日プレゼント用意していないことを余計に思い出し、落ち着かなくなり、出て行ってしまったのではないか。

 ご家族は、そんな風に思っているようだった。

 もちろん、ご本人に聞いてもはっきりしない。

 誕生日が近づくにつれ、どんどん帰宅願望が酷くなっていったことも、あの日、山根さんの家に上がり込んで物品を漁っていたことも、なにもかも、すっかり忘れてしまったようだった。

 結局は、謎のままだ。

 でも、


 彩花の誕生日プレゼントを探すために帰宅したいと言っていた――。


 それは素敵な想像だった。

「さて、そろそろか」

 俺は今日、夜勤だ。

 真っ暗なふれあい西家で、たった一人、勤務にあたっている。

 フロア中央のテーブル席に陣取り、作業をしていた。

 そんな俺の気持ちは、仕事とは全く別方向へ向いている。


「明日の百坂・東都のグレーゾーンは、絶対聞いてください」


 昨日、北条さん、彩花、悠の三人からそんな連絡がきた。

 突然の連絡に驚いたが、納得もした。

 あの日を過ぎてから、初めての放送なのだ。

 百坂・東都のグレーゾーンの放送は午前一時から。

 こんなところを『介護の鬼』である市川園長に見られたら大激怒されるだろうが、今日だけは許してもらいたかった。

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