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第七章ー14

「……あ、え? どういうこと、ですか?」


 か細い声が耳に届く。

 近くにいた彩花の声だった。

 きっと、正確に事態を把握しているのは俺だけだろう。

 市川園長や松岡主任は、彩花のことをなんとなく知っていても、今、テレビに映し出されている『はなうた』が、どんな意味を持つ映像なのか、分からないはずだ。

 認知症などの専門知識がないご家族も同様だ。彩花の初主演作がなにかは知っていても、何故、西条さんが唐突に、「私の孫です!」なんて言い始めたのか、理解できないはず。

 俺は、自分でも頭の中をよく整理しながら説明する。

「たぶん、ですけど……西条さんは、覚えていたんですよ」

「え?」

 戸惑う彩花を見据えて。

 俺自身、まだ信じられない気持ちのまま、口を動かす。

「西条さんは、ずっと、画面越しに彩花のことを見てきましたよね。アニメの声を通して、彩花を感じて、アニメのキャラを見て、彩花のことを応援していたんです。……電話とか、連絡は取っていたんでしょうけど、それ以上に初主演作である『はなうた』を見て、応援していたんだと思います。

だから、彩花の声を認識できなくなったのは、彩花のことを忘れたからじゃなくて、『彩花の声』は『作られたアニメキャラの声』だという印象が強くなっていたからじゃないか、と、思われます」

 俺の言葉を聞いて、彩花は、でも、と言う。

「でも、実際、わたしのことは忘れてしまっていますよ?」

 そう。

 その通りだ。

 だから、俺も信じられない。

 そんなことが、あり得るのか。

「あくまで、仮説です。仮説ですが……。きっと、西条さんにとって、孫の『彩花』という人間は、声優として活躍している彩花なんだと思います。名乗れば分かる、と以前、話していましたけど、それが証拠です、『忘れた』わけではなく、『分からなくなった』だけなんですよ。『西条家の孫、彩花』ではなく、『声優、百坂彩花』としての記憶、印象が強烈に残ったために、西条さんにとっては、画面越しに見る、声優としての彩花が、西条さんにとってのお孫さんなんですよ」

 つまり、と結論付ける。


「西条さんは、『彩花』のことを、覚えています」


 ――覚えている。

 その言葉を聞いても、彩花はまだ信じられない様子で、茫然としていた。

 俺だって実感は湧かない。

 でも、実際に目の前で、


「この話数では、まだまだ未熟な感じが出ていますけど、第十二話の最後のシーンは本当に感動したんです!」


 西条さんは、覚えていることを、示している。

 具体的な話数まであげていた。

 その姿勢は、自分の大好きな孫を思う『おばあちゃん』であり、大好きなアニメを紹介する『ファン』そのものだった。

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