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第七章ー13

 松岡主任と俺はその話題には加われないため、西条さんの様子を見に行こうと廊下へ向かい――


「はい、西条さん、こちらですよ。皆さん待ってましたよ」


 ちょうどそのタイミングで、市川園長がリビングへ西条さんを連れてきた。

 どんな魔法を使ったのか、市川園長と腕を組む西条さんは、それまでが嘘のように、にこやかな表情をしていた。

 リビング中央にあるテーブルへ、西条さんを誘導する。

 先に座っていた、彩花の叔母さんと思われる方が席を譲り、西条さんが腰を下ろす。

 それを見届けてから、市川園長は額の汗をぬぐいつつ、ぐったりとした様子でこちらへ歩いてくる。

「園長、お疲れ様です」

 声をかけると「桜川さんも」と言葉が帰って来る。

「西条さん、なんて言ったら落ち着きましたか?」

「何もしてないですよ。ゆっくり、ひたすら話を聞いて、会話が続かなくなったところで、立っていただくように声をかけただけです。気が済んだのでしょう」

 市川園長はさらりと言ってのけるが、それがどれほど大変なことか、額に流れる汗が物語っている。

 認知症を持つ人の気が済むまで、噛み合わない話にずっと合わせ続けるのは、至難の業だ。途中で相手を不快にさせるようなことを言うと、途端にスイッチが入り、興奮する。

 どんな時でもプロの技を見せる市川園長は、間違いなく、今回の騒動のMVPだった。

「桜川さ――」



「皆さん! 見てください!」



「――ん!?」

 その場にいた全員がびっくりするような、大音量の声がリビングに響いた。

 背後から聞こえる形となった市川園長はびくっと体を揺らして振り返り、俺や松岡主任も声の出所を探る。

 各々、近くにいた者同士で今回の騒動について話し合っていたのだが、一瞬で静まり返った。

 その声の出所は……。



「皆さん、私の孫です! 孫が、テレビに出ています!」



 数秒間、時が止まったように、リビングが静寂に包まれる。

 声の出所は、テーブル席に座ったばかりの西条さんだった。

 俺も、市川園長も、松岡主任も、娘さんも……誰もが、何を言い出したのか、理解が追いつかなかった。

 瞬きを繰り返す間にも、西条さんは言葉を紡ぐ。



「あっ! ほら、この子です、この子! 私の孫が声を当てているんですよ!」



 テレビ画面を指さし、西条さんは、周囲の人間に『そのこと』を伝えようと、必死に声をあげる。


 ――は? え、いやいやいや、え?


 俺の頭の中は、そんな、言葉にならない声で埋め尽くされた。

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。


 つまり、どういうことだ?


 そんな疑問を、自分自身に投げかけてみる。

 いや、もう分かっている。

 結論は出ている。出ているが、そんなことがあり得るのか、と信じることができていないだけだ。

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