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第七章ー12

 俺たちが話している脇では、また、格闘が始まっていた。

 市川園長が上手く会話を誘導しているが、今度は廊下に座り込んで動かなくなったようだった。

 隣にいる彩花は複雑な表情でその様子を見守っていた。

 その、さらに隣。

 彩花の後ろに着いてきた悠は、信じられない、といった表情でやり取りを見つめていた。

 悠にとっては、『久しぶりの再会』のはずだった。

 少なくとも、ここ数ヶ月は西条さんと顔を合わせていないはずだから、ここまで認知症が悪化している西条さんを見るのは初めてのことだろう。

 北条さんや彩花から話は聞いていただろうが、ショックを隠せない様子だった。

 しかも、やはりというべきか。

 先ほどから、西条さんは何度も彩花の方を見ている。

 見ているのに、愛すべき孫に全く関心を示さない。

 二人のことを知っていればいるほど、目の前の光景は、辛く映るはずだ。

「西条さん、こんなところで座り込んでいても仕方ないですよ。向こうに美味しいご飯を用意していますので、行きませんか?」

「美味しいご飯があると、どうして行かなきゃならないんですか? ここにいます。離してください」

「分かりました。ご飯は食べなくてもいいですし、お話しをゆっくり伺いたいので、とりあえずリビングに行きましょう? ここは廊下の真ん中ですよ」

 市川園長は何度も何度も、繰り返し声をかけて、西条さんに立ち上がることを促すが、腰をついたまま、動こうとしない。

「……ん?」

 市川園長は、一瞬だけ西条さんから視線を外し、松岡主任にジェスチャーで指示をする。

 松岡主任はすぐに頷き、周囲へ呼びかける。

「皆さん、全員でここにいても仕方ないので、一度、リビングに戻りましょう。西条ヨシさんは市川園長がついていてくださるので、安心してください」

 市川園長からの指示は、人払いをしろ、ということだったらしい。

 西条さんにとって、なるべく刺激が少なくなる環境を作る。

 それが目的だと俺も理解した。

 十数名に見つめられ、責めるような視線を受け続けたら、認知症でなくても嫌だろう。

 俺は小声で彩花たちに事情を説明し、戻るよう促す。

 松岡主任を先頭に、玄関周辺に溜まっていた親戚一同、全員がリビングへ移動する。

 西条さんは完全に市川園長に任せる形となり、娘さんから改めて、状況説明がある。

 ちなみに、集まっていた捜索隊の方々には、発見が確認された時点で連絡してある。一度、自宅へ戻ってもらっている状態だったため、また集まるよりも、後日きちんとお礼をする形を取り、今日はそのまま解散となった。

 警察にも連絡し、防災無線を使って発見が確認されたことを全住民へ流してもらった。

「――以上です。今日はありがとうございました」

 そういった細々した状況説明も娘さんがしてくださり、そこまで終えて、ようやく一段落した。

 そこから先は、親戚同士の話になる。

 山根さんを筆頭に、迷惑をかけた皆さんへ、いつ、どんな形でお礼をするか、謝罪をするか。近くに住んでいる皆さんは特に、そのことについて深く詰めていた。

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