第七章ー9
言われて視線を向けてみると、家族の誰もが、鍵を持っている様子がなく、鍵を開ける動作もなく、家に入っていく。
合点がいった。
不思議そうに見つめる悠に説明する。
「そっか。東京だと、鍵をかけるのが普通ですものね」
「え? こっちは鍵をかけないんですか?」
「かけないわけではないですよ。遠出したり、何時間も外で作業をする時はかけますね。でも、ほんの数分外に出る程度だったり、近所で買い物をするってくらいでは、かけない人の方が多いかもしれないです」
地方特有の風習だろう。
人口密度が高く、誰が家に来るか分からない都市部では防犯のため、誰もが必ず家の鍵をかける。連日のようにメディアで凶悪事件が報道される昨今、新潟でも、市の中心部では鍵をかける習慣が定着している。
ただ、この辺りでは、未だ、鍵をかける家は少ない。
昔からよく知っている人間同士でコミュニティがしっかりとできており、知らない人間が来れば目立つような場所だ。最近、若い世代が住んでいる家では鍵をかける家も増えてきたが、それでもまだ鍵をかける習慣は定着していない。
送迎業務で自宅へ伺った際、鍵がかかっていない家も多い。
「そうなんですね……。空き巣とか、入られたりしないんですか? 玄関から普通に入れるってことですよね?」
「そう言われると、防犯上、良くないとは思いますが、ほとんど聞いたことがないですね。なんなら――ん?」
話を続けようとして。
ちょっと待て。
俺はあることに気付く。
西条さんが行方不明になってから、五十人以上の態勢で捜索を続けて、警察にも協力してもらっているというのに、目撃情報すらない現状――。
ウォーカーを使用しなければふらつくこともあり、普通に歩くこともままならないような高齢者が、そう遠くへ行けるはずもなく――。
松岡主任との会話を思い出す。
『考えられるとすれば、どこか、物置の中とか、見つけにくい場所にとどまっていて、全く動いてない、とか……』
協力を申し出てくださった小林さんはなんと言っていたか。
『ちょうど手が空いていますので、家の者にも知らせて、家族総出で手伝いますよ』
……まさか。
俺は気付くと同時、スマホを取り出した。
「桜川さん?」
「あ、すみません。ちょっと気が付いたことがあるので、捜索指揮を執っているうちの上司に連絡します」
訝し気な顔をする悠に断りを入れ、市川園長へ電話する。
通話が繋がるまでの間、これまでの経過を反芻する。
西条さんが出て行って、それほど時間が経たない内に十名弱が集まっていた。初動としては十分すぎる人数だが、周辺を捜索したといっても、この時点では穴があっただろう。
俺と市川園長がすぐに駆け付け、状況整理を行い、地図をもとに改めて捜索を開始。
警察にも連絡を入れ、防災無線でも呼びかけてもらい、連携を取りながら万全の態勢で捜索を行った。協力してくださる方も増え、西条家周辺の捜索はほとんど終えることができた。
一見、とてもスピーディーな対応に思えるが、この時点で、西条さんが家を出て行ってから、三十分以上が経過している。
最初に、気付くべきだった。
誰もが、『自宅を出て行った』事実があることで、確認が疎かになっていた。どこかへ向かって、移動しているのではないかと、思い込んでいた。
悠に指摘され、始めて気付いた。
『鍵をかけていない』
それはつまり、入ろうと思えば、どこの家にも勝手に入れてしまうということ。
しかも、捜索を開始して以降、小林さんのように、家族総出で協力してくださっている方々もおり、『家に誰もいない状態』の家庭が増えている。
どこかのタイミングで誰かの家に入り、そのまま、そこに居座っている可能性があった。
それならば、全て、辻褄が合う。
「もしもし? 市川園長、ちょっと確認したいことがあるのですが、良いですか?」
俺は市川園長に説明し、捜索を一時中断、近隣に住む方々は家に帰って頂き、自宅内全てを確認してもらうようお願いした。




