表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/87

第七章ー8

 『そんなことはない』、『意味はある』、『沢山元気をもらっている』、『いつも感謝している』。

 そんな薄っぺらな言葉が次々と浮かんでくるが、俺は返事をしなかった。

 他人がいくら勇気づけようと言葉を重ねても、なんの意味もないからだ。

 悠が言った「なにをしているのか?」という問いは、俺が介護職に就いてから、幾度となく自分に問いかけてきたものだ。最近になってようやく、「やって良かった」、「頑張って良かった」と思えることも増えてきたが、それも極わずかだ。

 介護職は、『覚えてもらえないこと』を前提に仕事をしている。

 御利用者のためにいくら体を張っても、いくら一生懸命仕事をしても、数分後には忘れられていることが多くある。日常茶飯事と言っても良い。

 忙しい仕事の合間を縫って、何週間も前から準備して、ようやく成功させたイベント事も、結局、その人にとって、どんな意味があったのか、何も分からないのだ。七夕、お祭り、紅葉狩り、敬老の日、クリスマス、正月、節分、雛祭り……。一年間を通して、毎月、毎週のように、なにかしら企画し、行事をやって、お出かけをして、レクを考えて。

 そうやって、どれだけ御利用者のために尽くしても、本人たちにどれだけ伝わっているのか――。

 見返りを求めて行っているわけではない。

 給料をもらって、プロとしてやっているのだ。

 病気であることも理解している。

 本人たちに悪気がないのも知っている。


 じゃあ、受け入れられるか?


 全く、別の問題だ。

 なんのために仕事をしているのか。

 誰かに言われるのではなく、それぞれが、自分なりの答えを持たなければ、仕事を続けられないことを、俺は――俺たち介護職員は、よく理解している。


「あれ……?」


 唐突に、悠が立ち止まる。

 なにか気になることでもあるのか、せわしなく動かしていた視線を一点に留めている。

 その視線の先を追ってみると、そこには一つの家族の姿がある。

 買い物帰りだろうか。

 大きな手提げ袋を持ったお母さんらしき人と、子どもが一人、お父さんと思われる男性の姿もある。

「どうかしましたか?」

 なにかあっただろうかと問いかけてみると、悠は「いえ、ちょっと気になって」と言う。


「鍵、かけてないのかな? って」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ