第七章ー8
『そんなことはない』、『意味はある』、『沢山元気をもらっている』、『いつも感謝している』。
そんな薄っぺらな言葉が次々と浮かんでくるが、俺は返事をしなかった。
他人がいくら勇気づけようと言葉を重ねても、なんの意味もないからだ。
悠が言った「なにをしているのか?」という問いは、俺が介護職に就いてから、幾度となく自分に問いかけてきたものだ。最近になってようやく、「やって良かった」、「頑張って良かった」と思えることも増えてきたが、それも極わずかだ。
介護職は、『覚えてもらえないこと』を前提に仕事をしている。
御利用者のためにいくら体を張っても、いくら一生懸命仕事をしても、数分後には忘れられていることが多くある。日常茶飯事と言っても良い。
忙しい仕事の合間を縫って、何週間も前から準備して、ようやく成功させたイベント事も、結局、その人にとって、どんな意味があったのか、何も分からないのだ。七夕、お祭り、紅葉狩り、敬老の日、クリスマス、正月、節分、雛祭り……。一年間を通して、毎月、毎週のように、なにかしら企画し、行事をやって、お出かけをして、レクを考えて。
そうやって、どれだけ御利用者のために尽くしても、本人たちにどれだけ伝わっているのか――。
見返りを求めて行っているわけではない。
給料をもらって、プロとしてやっているのだ。
病気であることも理解している。
本人たちに悪気がないのも知っている。
じゃあ、受け入れられるか?
全く、別の問題だ。
なんのために仕事をしているのか。
誰かに言われるのではなく、それぞれが、自分なりの答えを持たなければ、仕事を続けられないことを、俺は――俺たち介護職員は、よく理解している。
「あれ……?」
唐突に、悠が立ち止まる。
なにか気になることでもあるのか、せわしなく動かしていた視線を一点に留めている。
その視線の先を追ってみると、そこには一つの家族の姿がある。
買い物帰りだろうか。
大きな手提げ袋を持ったお母さんらしき人と、子どもが一人、お父さんと思われる男性の姿もある。
「どうかしましたか?」
なにかあっただろうかと問いかけてみると、悠は「いえ、ちょっと気になって」と言う。
「鍵、かけてないのかな? って」




