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第七章ー6

     ◆



「ここの裏側ってどうなってるんですか?」

「そっちは完全に山です。警察が回ってくれているみたいですが、見つかってないですね」

 捜索本部に留まっていても仕方がないので、近辺を捜索しながら、話し合う。

 悠も、西条家には何度も訪れているらしく、意外なほどこの近辺の地理を把握していた。地図を持って来なくても、具体的な話ができた。

「……参道とか、人が歩いて行けそうな場所もないですか?」

「ないですね。二、三キロ先に神社が一つありますけど、それだけで、他はなにもありません」

 西条家の裏側は、完全に山だ。

 道路を一本挟み、その先は急斜面になっており、とてもじゃないが老人が入って行けるような場所ではない。警察から、万が一を考え、明るいうちに捜索してみますと少し前に連絡が来たが、望みは薄い。

 認知症があるとはいえ、成人男性でも分け入るのが難しい場所へ、突き進んでいったとは考えにくかった。

「でもそうなると、もっと遠くへ行ってしまったとしか思えないですけど……」

「そうなんですよね」

 やはり、誰もが同じように感じるらしい。

 西条家近辺は、調べ尽くしている。

 物置や農業ハウスの中など、隠れられそうな場所も調べている。一部、所有者に連絡がつかず、調べられていない場所もあるが、だとしても、それも望み薄だ。

 本当に、どこへ行ってしまったのか。

「……」

「……」

 そこからは、必要以上の会話はなく、黙々と探し回る。

 何度も通った場所でも、人が違えば見る場所も違う。見落としているかもしれないし、捜索隊の目を盗んで、隠れているかもしれない。

 一パーセントでも見つかる可能性があるのなら、探すべきだし、諦めるわけにはいかなかった。

 そうして、さらに十五分ほど歩いた頃。

 悠が口を開く。

「桜川さん」

「はい?」


「本当に、忘れてしまうものなんですね」


 独り言に近い呟きだった。

 後ろを歩いている悠を振り返るが、彼女は歩みを止めず、視線もあちこちきょろきょろと動いている。

 俺も歩みは止めず、視線も前へ向けたまま、悠の言葉を聞く。

「あたしたち、よく、昔演じた作品のことも話すんですよ。アフレコ現場であの時こんなことしたよね、とか、打ち上げで○○に行って飲んだよねとか……。作品って、一緒に出演した演者さんや、一緒に作り上げてくださったスタッフさんとの大切な絆を証明するモノなので、忘れたくないものなんですよね」

 寂し気な口調だった。

 先ほど西条家で聞いた、はっきりとした声音とは逆。

 ぼそぼそとした、か細い声音だった。

「もちろん、ファンの皆さんにとってもそうだと思います。学生時代に同じアニメを友達と見て、その話題で盛り上がったとか、イベントに参加するために初めて新幹線や飛行機に乗ったとか、そこで出会った人と恋人同士になって結婚したとか、それぞれ、いろんなことがあると思うんです。きっと、そのどれもが大切な思い出で、忘れたくないはずですよね」

 悠は一度言葉を切り、また、ポツリと言う。


「でも、忘れてしまうものなんですね」


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