第七章ー3
そのご家族のおばあちゃんは、やはり認知症が酷く、介護職員もご家族も大変な思いをした。
今は別の施設へ移動となり、関わりはなくなっていたが、
「それは大変だ……。ちょうど手が空いていますので、家の者にも知らせて、家族総出で手伝いますよ。なにかあればふれあい西家さんに連絡すればいいですか?」
そんな風に申し出てくださった。
その方は続けて「お世話になりっぱなしだったので、こんな時くらい、手伝わせてください。役に立てるか分かりませんけどね」と爽やかに言ってくださった。
俺は、ありがとうございます、と深々と頭を下げる。
こうした申し出は、内心、涙が出るほど嬉しかった。
――汚い、キツイ、給料が低い。
そんな風に言われる介護職員は、現実として、本当に大変な仕事だと毎日痛感している。辞めようと思ったことも一度や二度ではない。
でもこうして、なにかった時に「あの時、○○していただけて」、「お世話になったので」と言われると、やって良かった、頑張って良かったと思う。
「もしもし、市川園長ですか? つい先ほど、小林さんのご家族に会ったのですが、協力してくださるそうです」
「そうですか、ありがたいですね。……人数が増えてきていますので、もう少ししたら、また全員集まりましょう。勤務が終わり次第、松岡主任も来ると言っていますので、その時間を目安にお願いします」
「分かりました」
頷き、通話を切る。
捜索を始めて三十分。
嬉しいこともあるが、そんなことばかり言っていられない。
俺は汗だくになりながら歩を進める。
「暑い……」
ペットボトルに入った清涼飲料水を一口飲む。
こんな中、水分を取らずに歩き回っていたら確実に熱中症になる。気温も湿度も高い。おまけによく晴れているため、日差しも強く、ずっと外にいると頭が痛くなってきそうだった。
俺は見落としがないよう、通りを一本一本確認し、ついでに家と家の隙間や、普段は見えないような物陰もチェックしていく。
――していくが、見つからない。
市川園長が「集まりましょう」と言ったのは目途が立たないからだろう。もしも、目撃情報があったのならば、その方面を重点的に探すよう指示がくるはずだ。そうしたこともなく、一向に状態が動かないのは、新しい情報がなく、事態が進展していないことを意味する。
「本格的にマズイかもってこと、か?」
乾いた唇を舐める。
このまま、何も解決しないまま、終わりになんてしたくない。
――そう言えば……。
ふと、彩花の顔が浮かぶ。
時刻は既に十五時半を過ぎている。
十三時頃に仕事が終わったとして、新幹線かなにかでこちらへ向かっているのだとすれば、早ければもう新潟へ着いていてもおかしくない時刻だ。
ご家族同士で連絡は取り合っているはずだし、彩花も焦っていることだろう。
彩花が既に新潟へ着いているのかいないのか、それは分からないが、ただでさえ精神的にキツイ状況の彩花に、負担をかけさせたくはなかった
「まだ、諦めるには早い!」
俺は汗まみれになった頬をパンと叩き、気合いを入れ直した。




