第七章ー2
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西条家は玄関を出て、右へ行くか、左へ行くかで随分と風景が変わる。
右へ向かうと住宅地、左へ向かうと田園風景が広がる。
右方向へ向かったとするなら、住民に目撃されている可能性があり、また、最悪、倒れてしまってもすぐに発見される確率が高い。反面、どこかの住宅の庭や駐車場、家と家の隙間などに迷い込んでいる場合、発見するのは困難だ。以前、側溝にはまったまま亡くなってしまった方や、物置で発見された方がいるとニュースで聞いたことがある。
左方向へ向かったとするなら、発見は案外容易いかもしれない。左方向は見渡す限り田園風景が広がっており、余程、遠くへ行かない限り、立って、歩いている人影を見逃すことはないだろう。ただ、もし転んで、田んぼへ落ちてしまっていたり、熱中症で倒れてしまっていた場合、話は別だ。すぐ近くまで行かないと見つけられない上に、ほとんど人通りがないため発見が遅くなる。
「どっちにしろ、危険ってことなんだよな」
俺は、任された範囲――住宅街の歩いて移動できる距離――を徒歩で移動する。
片手にペットボトルを握り締め、早足で探す。
西条さんは、家に調整したばかりのウォーカーを置いて出て行った。認知症のお年寄りが一人で外を出歩いているだけでも危険だというのに、影になるような場所で転倒し、動けなくなっていたら、死に直結する。
「あの、すみません、私、こういう者なんですが、真っ白な髪の毛のおばあちゃんを見かけませんでしたか?」
出会う人出会う人に、声をかけて回る。
俺の首にはふれあい西家職員であることを示す、顔写真付きの名札がかかっている。
就職して間もなく、送迎業務へ出る際、身分証代わりになるからと作成されたものだ。今の今まで、なんの役に立つのだろうと疑問に思っていたが、大活躍してくれていた。
首から下げた名札を見せると、不審がられることもなく、誰もがきちんと受け答えしてくださった。
その中でもありがたかったのは、
「あ、桜川さん。その節はお世話になりました。どうされましたか?」
偶然通りがかった、以前、ふれあい西家を利用されていた方のご家族と会えたこと。




