第六章ー12
「お、終わったみたいだな」
市川園長が受話器を置く。
「職員全員、ちょっと集まってください」
すぐさま、今日、出勤している職員全員を集める。
「今、西条さんの娘さんから、詳しい状況を聞きました」
市川園長から説明がある。
西条さんが家から出て行ってしまった状況としては、娘さんが買い物へ出た時だったらしい。自宅にはご主人がいて、西条さんを見ていたそうなのだが、ご主人は今日、朝四時から仕事だったらしく、疲れがたまっていたとか。
娘さんが帰って来るのを待っている間にうとうとしてしまい、その隙に西条さんが家から出てしまったらしい。
今日の誕生会のために、ご主人は無理言って仕事の時間をずらし、早めに仕事を終わらせて帰ってきたとのことで、責めることはできなかった。
「今回、西条さんが行方不明になったことに関しては、ふれあい西家に落ち度はありません。桜川さんは事前にできる限り、ご家族へ情報を提供していましたし、ご家族も危険性については認識されていました」
市川園長は、はっきりとした口調で宣言する。
関わっていた事業所職員を不安にさせないためだろう。
その上で、今後の方針を説明する。
「ただし、事業所を利用している方ですので、こちらに落ち度はなくても、放って置くことはできません。人命に関わることですので、こちらも、できる限りの協力体制を敷きます。……まず、桜川さん」
「は、はい!」
「これから、私と一緒に、西条ヨシさんの捜索に出てもらいます。西条さんの担当職員ということもありますが、桜川さんは、西条さんのご家族とも面識があり、特に、お孫さんとは深く関わっていますので、適任かと思います」
「分かりました」
よし、と思うと同時に、気を引き締める。
「それから、松岡主任」
「はい」
「私と桜川さんが抜けますが、事業所に来ておられる御利用者に迷惑をかけるわけにはいきません。任せていいですね?」
「任せてください。なんとかしますよ」
「それと、私たちの方からも、なにかあったらここに連絡を入れますし、山根さんを始め、ボランティアの方や、地域の皆さんにも声をかけて回ることになると思います。もし、問い合わせなどあったら、電話対応をお願いします」
「分かりました。こちらも、これから送迎などで外へ出ますし、状況が変わったら連絡を入れますね」
「お願いします」
市川園長は、次々と指示を出す。
西条さんが転倒した時も感じたことだが、まるで動じた様子がない。
日々、冗談半分で『介護の鬼』なんて話しているが、冗談抜きで凄い人なのだと最近、痛感している。
市川園長はプロ中のプロだ。きっと過去にも、こうした事例に立ち会ったことがあるのだろう。
心の底から、頼りになる管理者だと思わされる。
「――以上です。では、松岡主任、あとはお願いします」
「はい」
松岡主任は頼りになりそうな野太い声で返す。
なんだかんだ言って、この人も、介護現場のトップだ。
俺なんかとは、安定感が違った。
どっしりとした落ち着いた雰囲気を持っていた。
市川園長は松岡主任と頷き合って、俺に向き直る。
「桜川さん、行きますよ」
「はい!」
――俺だって!
今はまだ、半人前の介護士かもしれないけれど。
いつか、本当の意味で、頼りにされる介護士になりたい。
先に行く市川園長の背中を、俺は必死に追いかけた。




