第六章ー11
◆◇◆
十四時半。
西条ヨシさんが行方不明になったと連絡がきた。
最初、なにかの聞き間違いかと思ったが、そんな大事なことを聞き間違えるはずもなく。
緊急事態だった。
「行ってきます!」
「待て待て! ヒロ、どこへ行く気だ!」
居ても立っても居られず、慌てて捜索に向かおうとするが、松岡主任に肩を引っ張られ、強制的に止められる。
「どこって、捜さ――」
「駄目だ! いいから、落ち着け」
松岡主任は電話対応をしている市川園長を指さす。
「気持ちは分かるが、市川園長の指示を待て。お前はうちの法人の職員で、しかも、今は、勤務中だ。これが、お前の親族なら別だが、相手はここの御利用者だ。勝手に飛び出すことは許さん。いいな?」
「……はい」
思いの外、強い力で肩を抑えつけられ、抵抗することは許されなかった。頷くしかない。
「頭を冷やせ。いいな?」
ポンポンと、肩を叩かれる。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
松岡主任の言葉はもっともだ。
俺は、ふれあい西家の職員で、勤務中の身だ。身勝手な行動は混乱を招くだけだろう。
歯を食いしばり、今すぐ駆け出したい気持ちを堪える。
「市川園長、どう言いますかね?」
「放って置くことはないだろうが……どれだけ協力できるか、微妙なところだな。事業所にいて行方不明になったのなら、全職員を呼び出して、緊急招集をかけるところだが、家にいていなくなったんじゃ、俺らの責任じゃない。他の御利用者の対応もあるし、あまり無理なことはできないだろうな」
松岡主任は大きな手を腰に当て、唸る。
市川園長は彩花のお母様と通話中だ。
西条さんが出て行った時の詳しい状況の確認や、これからどう対応するのか、話しているのだろう。
「そこが自分の家だと分からなくなってたんでしょうかね?」
車に乗り込んだ時の西条さんの表情を思い出す。
とても嬉しそうに笑っていた。
「そうかもしれないな。認知症がかなり進んでたからな。ヒロ、ご家族に、その辺の危険性は伝えたんだよな?」
「はい。娘さんに、認知症が進んでいるため、自宅に帰っても落ち着いて過ごされるか不安が残るので、目を離さないようにしてくださいと、事前説明の時に伝えました」
そう、確かに説明したはずだった。
認知症が進むと、自分の家にいながら「家に帰る」と言い始める人がいる。そのため、家にいるから大丈夫だと気を抜かないよう、予め、お願いしていた。
娘さん――彩花のお母様も、その点は注意して見てみますと話してくださっていた。
なのに、何故……。




