第六章ー8
「東都さん」
直後、思った通り南原邦彦が、動く。
「その言葉、本心と受け取って良いのですね?」
「いいですよ」
悠はためらうことなく答える。
南原さんはそれを見て、また、にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「なるほど? つまりあなたは、自分の好き嫌いで、レギュラー番組を勝手にやめるということで良いのですね?」
「そういう話じゃ――」
「それも! 発端となっているのは、あなたたち自身の力不足ですよ。違うとは言わせませんよ? 今日、百坂さんの様子が普段と違ったのは、一緒にやっていたあなたが一番分かったはずです。それを修正できなかったからこんなことになっているんですよね?」
どこまでも煽るように、南原さんは続ける。
悠は何度か口を挟もうとしていたが、その度、南原さんは声を大きくしてそれを阻止する。
「声の仕事、大いに結構です。でもあなた、ここでこんな辞め方をしたら、噂になりませんか? こちからとしては辞めてもらって構いませんよ? あなたたちは、数多くある人気番組の一つに過ぎませんからね。ですが東都さん、こんな辞め方をしたら、『自分の気に入らないことがあると仕事を放り出す人だ』、『好き嫌いで仕事を選ぶ人だ』って噂が流れますよ。それ、結構致命的なことだと思いますが、大丈夫ですか?」
正しい。
南原さんの言葉は、正しかった。
経緯がどうあれ、このまま悠が自身の意志で、百坂・東都のグレーゾーンを辞め、幕を下ろすことになれば、他の仕事にも影響し兼ねない。
というより、南原さんが他のスタッフへ、言いふらすだろう。そのくらいの影響力がこの人にはある。
例え、悠が重視する『声の仕事』には影響しなくても、悠も声優の一人であることに違いはない。変な噂が広まれば、活動の幅が狭められることは必至だ。
「この――っ!」
「なにか? 本当に辞めたいのなら、自分の口から言ってくださいよ? 後腐れないように、『自分たちの都合で迷惑をかけてすみませんでした。辞めさせてください』ってね。我々は、普通に仕事をしていただけで、なにもしていないんですからね。あなたが勝手にキレて、喚いてるだけじゃないですか」
「――っ!」
さすがの悠もそこは否定できないようで、睨み付けるのが精一杯だった。




