第六章ー7
悠は、怒りを通り越して、最後は涙声になっていた。
「……」
何を言い出すのか、と最初は思ったけれど。
根底にあるのは、やはり、彩花のためを思う気持ちだった。
悠はもともと、彩花とは声優としてのスタンスが違う。
本人が言っているように、重視するのは『声の仕事』。
彩花は所謂、『アイドル声優』と呼ばれる部類に入るが、悠は違う。
よく一緒にいるため同列のように扱われるが、悠はアイドル顔負けの可愛さ、人気を誇りながら、写真集などは全く出していない。雑誌などの撮影すらほとんど断っている。
それは、彼女自身が、所謂『昔ながらの声優』のスタイルを重視しているから。
キャラに声を当てるという声優本来の仕事から離れて、声優が表に顔を出すようになったのは、つい最近のことだ。若くて実力があり、見た目も華やかな女の子が沢山出てきたことで、『声優』の売り方が変わったと言っても良い。
それは悪いことではない。大成功を収めている人間も多い。
彩花もその一人だ。
ただ、そうした仕事が多くなったことで、本来の声優業をあまり行わない者がいるのも事実なのだ。
悠は、そうなることを嫌い、受けられるオーディションは全て受け、事務所にも『声優としての仕事』を優先するよう、デビュー当初から、一貫してお願いしている。
もちろん、それだけでは今の声優業界を生き抜いていけない。悠自身、それは理解しており、ある程度、顔出しの仕事もこなしているし、イベントや動画配信番組にも出たりしている。が、それはあくまで補助的な活動に過ぎない。
つまり、『声の仕事』を最優先している悠が、数年にわたり同じ番組をずっと続けていること自体が、そもそも珍しいことなのだ。
では何故、そんな仕事続けているのか。
それは、たった今本人が口にしたように、番組自体への思い入れと、なにより、『彩花との関係』が大きい。
そんな番組の収録で、番組そのものへの侮辱と捉えられる発言を繰り返され、彩花が馬鹿にされ、大切なな用事があるというのに、妨害されているのだ。
悠にしてみれば、キレたくもなるだろう。
「ねえ、北条さん。もう、やめない?」
彩花もどう? と悠は付け足す。
問われた彩花は、どうして良いか分からなくなっている様子で、なにか反応しようとあたふたしているが、声にならない。
「……」
私はすぐには答えなかった。
すぐ近くにいる南原さんが、こっちもこっちで、怪しい空気を発していたから。




