第六章ー6
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彼女にとって、耐えがたい苦痛だったのだろう。
なんでもはっきりと物事を口にする悠にとって、親友である彩花が、明確な悪意によって苦しめられている現状を、見過ごせるわけがなかった。
悠は、今まで見たことがないほど、怒りに燃えていた。
「おいオッサン」
さすがにこの物言いはぎょっとした。
私も、ブース内の彩花も、制止しようと悠に目を向けて、硬直した。
言葉遣いなんて、そんなことがどうでも良くなるほど、誰もが彼女の表情と、その声に気圧された。
収録ブース内で椅子から立ち上がった彼女は、これから人を殺すんじゃないかという程、強烈な怒気を視線に込めていた。
発せられた言葉は――
「あたし、知ってるよ。南原のオジサン、この番組、潰したいんでしょ」
ぞっとした。
収録スタジオ内の気温が、一気に二、三度下がったようにすら感じる。
悠のその声は、以前、桜川さんを「信用していない」と冷たく言い切った時の比ではない。
あの時の声に、色をつけるなら、冷たくも熱のある青。
今、彼女が発している声に色をつけるなら、良いも悪いも、熱さも冷たさも、全てを消し去り、塗りつぶす『黒』だった。
「南原さんがそういうつもりなら、あたし、もうこの番組やめていい? こっちから頼みたいくらいなんだけど」
「え?」
「は?」
「なに?」
耳を疑った。
何を言っているんだと、諌めたくもなった。
心の中では、「ちょっと待て」と叫んでいた。
しかし彼女の雰囲気が、勢いが、それを許さない。
「百坂・東都のグレーゾーンは、ファンのみんなにも喜んでもらえてるし、あたしにとっても大切な番組だから、できれば続けたい。それは、本当。でも、あたしが、『声の仕事』を最優先に活動していることは知ってるよね?」
そこまでは、悠も声を抑えていた。
だがそこから先は、激情の海。
悠は積もりに積もっていた思いの丈をぶちまけていた。
南原さんのぎらつく視線が小動物に見えるほど、キツく、敵意を振りまく。狩猟者――猛禽類の目だった。
「南原のオジサンも北条さんも、知ってるでしょ? あたしが彩花よりも動画番組やラジオ番組をやってないこと。それ、あたしにとって、重要じゃないからなんだよね。意味がないとは思わないよ。ファン獲得のためにも、声優として人気を集めるためにも、大切な仕事だと思う。……じゃあ、それって、どうしてもやらなきゃいけない仕事なの? 違うよね? こんなクソみたいな現場で! ストレス溜めて! 誰がこんな仕事やりたいかって話だよ。ふざけんなっ! プライベートだろうと、大事な予定があって、事前にお願いしますって頼んでたんだぞ? 妨害する権利が誰にある? そんなにこの仕事は大切か? そんなにこの番組は大切か? 違うだろ……。
あたしはこんなクソみたいな現場で、ずっとやっていかなきゃいけないなら、こんな番組なくなっても構わないよ!」




