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第六章ー6

     ◆



 彼女にとって、耐えがたい苦痛だったのだろう。

 なんでもはっきりと物事を口にする悠にとって、親友である彩花が、明確な悪意によって苦しめられている現状を、見過ごせるわけがなかった。

 悠は、今まで見たことがないほど、怒りに燃えていた。


「おいオッサン」


 さすがにこの物言いはぎょっとした。

 私も、ブース内の彩花も、制止しようと悠に目を向けて、硬直した。

 言葉遣いなんて、そんなことがどうでも良くなるほど、誰もが彼女の表情と、その声に気圧された。

 収録ブース内で椅子から立ち上がった彼女は、これから人を殺すんじゃないかという程、強烈な怒気を視線に込めていた。

 発せられた言葉は――


「あたし、知ってるよ。南原のオジサン、この番組、潰したいんでしょ」


 ぞっとした。

 収録スタジオ内の気温が、一気に二、三度下がったようにすら感じる。

 悠のその声は、以前、桜川さんを「信用していない」と冷たく言い切った時の比ではない。

 あの時の声に、色をつけるなら、冷たくも熱のある青。

 今、彼女が発している声に色をつけるなら、良いも悪いも、熱さも冷たさも、全てを消し去り、塗りつぶす『黒』だった。



「南原さんがそういうつもりなら、あたし、もうこの番組やめていい? こっちから頼みたいくらいなんだけど」



「え?」

「は?」

「なに?」

 耳を疑った。

 何を言っているんだと、諌めたくもなった。

 心の中では、「ちょっと待て」と叫んでいた。

 しかし彼女の雰囲気が、勢いが、それを許さない。

「百坂・東都のグレーゾーンは、ファンのみんなにも喜んでもらえてるし、あたしにとっても大切な番組だから、できれば続けたい。それは、本当。でも、あたしが、『声の仕事』を最優先に活動していることは知ってるよね?」

 そこまでは、悠も声を抑えていた。

 だがそこから先は、激情の海。

 悠は積もりに積もっていた思いの丈をぶちまけていた。

 南原さんのぎらつく視線が小動物に見えるほど、キツく、敵意を振りまく。狩猟者――猛禽類の目だった。


「南原のオジサンも北条さんも、知ってるでしょ? あたしが彩花よりも動画番組やラジオ番組をやってないこと。それ、あたしにとって、重要じゃないからなんだよね。意味がないとは思わないよ。ファン獲得のためにも、声優として人気を集めるためにも、大切な仕事だと思う。……じゃあ、それって、どうしてもやらなきゃいけない仕事なの? 違うよね? こんなクソみたいな現場で! ストレス溜めて! 誰がこんな仕事やりたいかって話だよ。ふざけんなっ! プライベートだろうと、大事な予定があって、事前にお願いしますって頼んでたんだぞ? 妨害する権利が誰にある? そんなにこの仕事は大切か? そんなにこの番組は大切か? 違うだろ……。

 あたしはこんなクソみたいな現場で、ずっとやっていかなきゃいけないなら、こんな番組なくなっても構わないよ!」

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