第六章ー4
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十三時。
百坂・東都のグレーゾーン収録現場はぴりぴりとした空気が漂っていた。
収録前、彩花に気合いが入りすぎているのではないか、と心配もしたが、始まってみると彩花の話していた通り、心配し過ぎだったと思わされた。
いつも以上にハイテンションに喋る彩花は、『このあとの予定』をどれほど楽しみにしているのか一見して分かったし、私自身、問題なく終えられそうだと安心した。
予想外だったのは――いや、ある意味では予想通りだったのは、この男、南原邦彦。
「ストップストップ! だから、絶対変だって。こんなんじゃオンエアーできないよ。分かるでしょ? もうちょっと、いつも通り、自然に話してよ。あなたたち、声のプロなんだから、言ってること理解できるよね? ちゃんとやってよ。頼むよ」
南原さんは収録ブース内へ向け、マイクを通して言い放つ。
言うだけ言って、満足すると、どかっと自身の椅子に腰かけ、足を組む。
三十分後。
「ストップストップ! だから違うって。ほら、いつもだと、もうちょっとふんわりしてるでしょ? なーんか違うんだよね。どうしたの?」
また、南原さんが収録を止める。
さっきから、同じことが延々と繰り返されている。
南原さんは、『いつもと違う』、『もうちょっと自然に』、と何度も何度も収録を止め、時間ばかりを浪費させている。
確かに、彩花に気合いが入りすぎている感はあったが、それも最初のうちだけだった。何度も収録を止められ、同じことを延々やらされている今現在に関して言えば、むしろ、いつもよりテンションが低いくらいだ。
なにがいつもと違うのか、「もうちょっと自然に」、とはどういうことなのか、ブース内の二人も、止められるたびに不満そうな表情をしているが、横で聞いている私も、イラつきを抑えるのに必死だった。
今日、この後、予定が入っていることは南原さんにも事前に話してあり、許可も取っている。だというのに、一向に終わる気配がなかった。
明らかに、妨害されていた。
「ちょっといい? 二人ともさ、今度は空気悪くなってるよ。どうしたの? 普段通りって言ってるんだから、いつもと変わらないテンションでやればいいでしょ。それだけのことだよ。俺は、なにも難しいことは言ってない。真面目にやってもらっていい?」
また、止める。
彩花は気丈にも「すみません」と謝るが、焦っているのは手に取るように分かる。
話すテンポが速くなっていた。
彩花の目の前に座り、一緒に収録している悠は、無表情。
少し前まではまだ笑顔も見えていたのだが、今はもう、作り笑いをすることすらやめていた。




