第五章ー9
「もしもし、ふれあい西家で介護をしております、桜川です。お世話になっております」
珍しく、と言っても良いかもしれない。
電話をかけると、すぐに北条さんに繋がった。
「桜川さん、お疲れ様です。なにか緊急の用事でしょうか?」
北条さんが多忙なことは分かりきっている。
仕事の邪魔をしても申し訳ない。
俺はすぐに誕生パーティーについて説明した。
『こちらからも誘ってみますが、ふれあい西家さんからも一報入れておいていただけないでしょうか? 仕事にも関わることなので、ずっと反対していた家族が話すより、そちらの方が良いと思いますので』とは、ご家族の言葉。
こちらが提案したことであり、また、ご家族の心配も理解できたので、快く引き受けた。
企画を聞いた北条さんは、
「それはいいですね。彩花にとっても息抜きになりますし、素敵な企画だと思いますよ」
と、いつもより明るめのトーンで返事をくれた。
「では――」
「ですが、その日は仕事が入っていまして……」
浮かれた気持ちが一気に萎んだ。
やっぱり、急すぎるか。
仕方ない。声を作る仕事は休んでいるが、彩花は絶大な人気を誇るアイドル声優だ。スケジュールもびっしりだろう。
残念だが、今回は難しいか。
そう思った矢先。
「一応、十三時頃には終わる予定なので、時間が押さなければ……その後、すぐに新幹線で向かえば、十五時半から十六時くらいには新潟へ戻れると思います。それでも良ければ、こちらも調整してみますが、どうでしょうか?」
そんな言葉が電話口から聞こえてきて、空いてる手でガッツポーズを作ってしまった。
「問題ありません。ご家族の都合で、西条ヨシさんも、ふれあい西家から家に戻るのが十五時過ぎの予定になっています。誕生会はその後ですので、ちょうどいい時間かと思います」
「そうですか。分かりました。では、そのように彩花にも伝えておきます」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
嬉しさのあまり、電話越しだというのに、礼をしてしまう。
ちょうど視線の先にいた松岡主任にニヤッと笑われ、顔が熱くなる。
俺は勢いそのまま「失礼します!」と通話を切ろうとするが、
「……はぁ」
電話の向こう側から、どこか憂鬱そうなため息が聞こえてきた。




