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第五章ー8

     ◆



 動き始めてしまえば、決まるのは早かった。

 なんと一週間後、西条さんは自宅へ戻ることとなった。

 まず、市川園長に現場の意見を話した。

 介護の鬼と呼ばれる市川園長がどんな判断を下すのか、不安もあったのだが、あっさりと承諾された。

 市川園長は「御本人のためを思ってやることなら、止めませんよ」と言い、しかも、自分の方が話も通りやすいだろうと、ご家族への連絡を買って出てくださった。

 御利用者のためとあらば、すぐに行動を起こしてくださる姿勢は素直にありがたかったし、やはり、介護に対して並々ならぬ情熱と覚悟を持っている人なのだと思わされた。

 連絡を受けたご家族も、快く了承してくださった。

 我々介護職員はそこまで考えていなかったのだが、西条さんの誕生日が一週間後に迫っていたのだ。ご家族も「誕生日くらい家で過ごさせてあげたい」と話されていたらしく、とんとん拍子に事が決まった。

 そんな中、俺はというと。

「じゃあかけてみますね」

「おう。良い返事がもらえるといいな」

「そうですね」

 事業所の固定電話から、北条さんへ電話をかけることとなった。

 誕生日と聞いて思い出したのだが、実は、彩花の誕生日もすぐそこに迫っているのだ。

 最近、西条さんの対応に必死すぎて、大好きな人の誕生日が頭から抜け落ちていた。……まあそれは言い訳に過ぎないが。

 彩花の誕生日は、七月十三日。

 そして、彼女が慕う祖母、西条ヨシさんの誕生日は七月十一日で、なんと二日違いだった。

 そこで、俺は一つの案を思い付いた。


 西条さんが誕生日に家へ帰るのなら、彩花もそれに合わせて帰ることはできないだろうか? 二人揃って、家族で誕生パーティー、なんてどうだろうか?


 ダブル誕生パーティー企画だ。

 ご家族から、西条さんが帰宅しても良い日だと指定されたのは、七月七日、七夕当日、日曜日だ。それ以降は、ご家族の都合がつかないらしく、厳しいとのこと。

 無理は承知の上だった。

 北条さんだって一週間前に突然こんな話をされても困るだろう。いくら仕事が減っているとはいえ、彩花のスケジュール調整ができるか、微妙なところだった。

 そのくらい、部外者の俺でも理解できる。

 それでも俺が「できることなら」と望んだのは、山根さんから受け取った想いが大きかった。


「まだ少しでも記憶が残っているうちに、二人で過ごせるよう、配慮できないかしら」


 心の中に、この言葉が鉛のように残っていた。

 これも同じく、松岡主任、市川園長に申し出てみたが、さすがに、これに対しては、反応が鈍かった。二人とも彩花の事情を知ってはいるが、いくらなんでも事業所職員としての範疇を超えていると注意された。

 市川園長からは、

「まず、ご家族に確認を取ってください」

 と言われ、松岡主任からは、

「公私混同するなよ」

 と皮肉っぽく言われてしまった。

 俺は若干気落ちしつつ、すぐにご家族へ連絡を入れた。

 対して、ご家族の反応は良好だった。

 すぐに了解してくださり、それどころか、ご家族も彩花の現状については心配していたようで、「言っていただけて良かった。誘ってみます」と言われた。

 ともかく。

 こうして、西条さんと彩花のダブル誕生パーティー企画が立ち上がった。

 ご家族の了承が得られると、渋い顔をしていた市川園長も「それならいいでしょう。他の業務に支障が出ない範囲でお願いしますよ」と釘を刺しつつオーケーしてくださり、松岡主任は「頑張れよ」と背中を押してくれた。

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