第五章ー6
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西条さんをフロアへ連れ戻したあと、現場職員だけでカンファレンスを開く。
頼りになる市川園長は、会議があるとかで外へ出て行ってしまった。相変わらず、多忙な人だ。
「なにが原因ですかね?」
「なんだろうな……。園長が言ってた通り、ここまで急激に悪化するとなると、環境が変わっただけとは思えないが」
「その原因が分かれば苦労ないですよね」
今いる職員は四人。
俺と松岡主任、今日はベテラン職員があと二名揃っている。
毎度のごとく、フロア左奥の台所で顔を突き合わせる。
「桜川さんが一番接してる機会が多いですよね? どんな些細なことでも良いので、最近、変化したこととかありますか?」
ベテラン職員の一人に問いかけられる。
どこの施設、事業所でも同じだが、職員一人につき、担当として御利用者数人が任される。彩花とのこともあり、西条さんは俺の担当だった。
必然、接する機会は最も多くなる。
「自分が見ている限り、家へ帰ることに頑なになってきている、としか……」
継続して、西条さんがどんなことを言って帰りたいと希望するのか、記録はとり続けている。悪化に伴い、変化するかと思いきや、話す内容には変化がないのだ。
「そうですか……。では、いっそのこと、一度家に帰ってもらったらどうですか? 最初、利用を始めた時は家へ帰る予定になっていたんですよね? それで落ち着くかもしれませんよ」
ベテラン職員の言葉に、俺と松岡主任は首傾げる。
確かに、西条さんは週に一、二度は家へ帰る予定で利用を開始した。それは間違いない。
しかし、ふれあい西家の利用を始めてから、一度として自宅へ戻っていない。
何故か?
転倒があったからだ。
以前よりも足元が危うい状態であることや、認知症が進んだことから、このまま家へ帰して大丈夫なのか、と疑問が残る。自宅に帰したとして、トラブルは起きないだろうか。
一度、市川園長に確認したところ、ご家族からはできれば預かっていて欲しいと言われているらしい。
その辺の経緯を改めて説明し、それに、と付け加える。
「それに、一度、家へ帰ることで、余計に酷くなる場合もありますよね。家に帰ることで、記憶が鮮明になって、ここへ来ること自体を拒否するようになったり、来たとしても、ずっと玄関に居座られるようでは、どっちが良いとも言えませんよ」
「確かにな。ずっとふれあい西家に泊まっていた人が、正月に家に帰って、戻って来たら悪化してたこともあった。そういう場合、家に帰ることが本人のためになるのか分からんわな」
松岡主任は腕を組み、難しい表情だ。
本人の希望を優先するのならば、間違いなく、自宅へ戻ってもらうべきだ。あれだけ帰りたいと希望しているのだから、帰れる機会があるのに帰らせないのもおかしな話だ。
もともとそういう契約だったのだから、きちんとお願いすれば、家族もそれほど拒否しないだろう。
心配なのはその後だ。
家へ帰ることで、帰宅願望が強まるケースを過去、何度か見たことがある。家族や本人は、それを望むだろうか。何度も帰れる保証があるなら別だが、中途半端に家へ帰ることで、今よりもっと対応が難しくなるかもしれない。




