第五章ー2
そうこうしている間に、コーナーも佳境に入る。
普段ならば、お悩みメールは一通しか採用せず、彩花か悠か、どちらか一人が声を作れば良いだけなのだが、今回は二週間ぶりということもあり、二通採用する。
それも南原さんの指示だった。人気コーナーである以上、バランスを考えて欲しい、と。
先ほど、一通目のお便りが終了し、そちらは悠が上手くさばいていた。問題は、次の彩花の方だが……。
私は唇を引き結び、身構える。
《はい、こちら、ラジネーム、サクゾウさんからです。いつもありがとうございます》
「……へ?」
身構えた分、予想外の名前にびっくりする。
思わず、変な声が出てしまった。
サクゾウさん――桜川さんからのメールだった。
彩花はためらいなく、メールを読み上げる。
《彩花さん、悠さん、こんばんは》
《こんばんは~》
《これから夏、という季節ですが、僕は毎年、この季節になると悩むことがあります。僕は暑いのがとても苦手で、仕事で外へ出る以外は、ずっと冷房の効いた部屋の中でだらだらと過ごしてしまうのです。部屋の中で過ごすことが悪いとは思いませんが、たまには外に出て運動した方が良いのかな? と不安になることがあります。お二人は、部屋の外へ出て、運動した方が良いと思いますか? それとも、無理に出る必要はないと思いますか? 彩花さん、友達や家族に話しかける感じで、普通のトーンで答えてください。よろしくお願いします。……だそうです》
《なるほど。これはあれかな? 家でだらだらしちゃってる友達か家族に対して、同じ目線から、言葉が欲しいってことかな?》
《たぶん、そういうことだろうね。これ、どう思う?》
《あたしは無理して外に出る必要ないと思うけど。彩花は?》
《わたしは――》
自然と口元が緩んだ。
二人が「大丈夫」と言った理由がこれだった。
事情を知る桜川さんが、他のリスナーに不信感を持たせないよう、気を利かせてメールを送ってくれていたのだ。
ありがたかった。
「ふん」
南原さんは、つまらなそうに鼻を鳴らしてスタジオを出て行く。
彩花が声を作れなくなっていることに関しては、南原さん含め、関係者へ連絡済みだが、桜川さんとのやり取りまで知っているのは、悠と事務所だけだ。
南原さんにとっては、予想外も良いところだろう。
南原さんを見送り、こめかみを指でもみほぐす。
「このタイミングで出て行くということは……」
先日、こんな噂を耳にした。
南原さんは、『百坂・東都のグレーゾーン』を終了させたがっている。
私の知る限り、百坂・東都のグレーゾーンは南原株式会社にとっても大切な収入源になっているはずだった。イベントでの物販やラジオCDの売り上げは番組開始以降、常に黒字を維持し続けている。
イベント自体も、毎回満員御礼で、ファンの間では抽選に漏れている人もかなりいると聞く。
普通、そんな番組であれば、代表取締役である南原さんは、もっと手厚い支援を行うはずで、今回のように、本人たちと相談もせず、一方的に「このコーナーをやれ」などと指示して来ないはずだ。
しかも、彩花が上手く乗り切ろうとすると、最後まで見届けることなく、スタジオから出て行くというこの態度。
噂は本当かもしれなかった。




