第五章ー1
《真っ二つに切り刻め!》
収録ブース内から派手なジングルが聞こえて来る。
百坂・東都のグレーゾーン、収録の真っ最中だった。
《このコーナー、久しぶりだね》
《そうだね~、悠は前回どんな内容だったか覚えてる?》
《なんだっけ? 姉が家の中を全裸で歩き回ってて困るけど、一般的に、それはありかなしか、みたいな悩みじゃなかった?》
《あ、それそれ! よく覚えてるね。最終結論はどっちにしたっけ? ありにしたんだっけ?》
《そうだよ。なんかお姉さんっぽい声で回答をお願いしますとか言われて、あたしがやったんだから》
「……本当に大丈夫か?」
私は不安を抱いたまま、彼女たちを送り出していた。
悩んだ末に、南原さんから指摘されたことを、ストレートにそのまま伝えた。
私の予想では、「何言ってんだあのオッサン! ふざけんな」と激怒するんじゃないかと思っていたのだが、そうはならなかった。
悠は、
「ふーん。やっぱ性格悪いね」
と予想に近い反応だったが、彩花は、
「そのうち言われると思ってたよ」
と意に介していない様子だった。
最後は、「大丈夫だから見てて」と二人そろって言い残し、すぐに収録ブースへ入ってしまった。
気が気じゃなかった。
彩花は現在、医師やボイストレーナーさんとも連携し、失った声を取り戻せないか試行錯誤しているが、未だ、一度たりとも、声を作れた試しがない。
声を失った当初に比べれば、顔色も大分良くなり、ラジオの収録なども、普段に近い雰囲気に戻ってきた。
それでも、声を作れないままこのコーナーをやるのは、泳げないのにダイビングに挑戦するようなものだ。
いくらなんでも無謀すぎる。
「北条さ~ん、快く引き受けてくれたみたいですけど、どうなんですか? 百坂さん、行ける感じですか? 振っておいてなんですけど、これで失敗したら、彼女、立ち直れなくなるんじゃないですか?」
私が彼女たちに事情を話す瞬間を、この人はしっかりとチェックしていた。ちらちらと視界に入って来て、笑顔の圧力が気持ち悪かった。
私は収録ブースへ視線を向けたまま、対応する。
ねちねちと絡んでくる南原さんにかまっている余裕はなかった。私だって、彼女たちの真意が分からないのだ。
「南原さん、それがですね、私にも分からないんですよ」
「はあ? どういうことですかー?」
顔をぐいーっと近づけられる。
それとなく半歩、横にずれて、事実をそのまま伝える。
「彼女たち、大丈夫、とだけ言い残して、すぐにブースへ入ってしまったもので」
「ほう! なるほどなるほど」
南原さんはにや~っとイヤラシイ笑みを浮かべる。
「プロデューサーである北条さんにも言えないような秘策があるのか、それともやけくそなのか。お手並み拝見ってところですね。北条さんも心配ですね? 一緒に応援しましょうか」
「……はい」
いろいろと、言いたいことはあったが黙って置く。




