第四章ー11
◆◇◆
スタジオを出て十メートルほどの自販機前にて。
私は南原さんからある通達を受けた。
「南原さん、いくらなんでもそれは――」
「あのね、北条さん、これでも配慮してる方だよ。二週間も経ってるよ? SNSは見てる? ファンからは疑問の声が噴出してるよ。人気コーナーをまるまる一つ、全くやってないんだよ。いくらなんでもおかしいでしょ。俺だって鬼じゃない。百坂さんの事情は理解してるし、同情もするよ。でもねー、この世界、申し訳ないけどそう甘くないの。もしもこのまま、この状況で、無理にでもずっと続けるというのなら、俺は『決断』するよ。……分かるよね?」
「――っ」
喉から出かかった言葉ぎりぎりのところで飲み込む。
「分・か・る・よ・ね?」
「……はい」
「はいオーケー。じゃあ彼女たちにも伝えよう」
「え? 今、ですか?」
「そうだよ。何言ってるの? 君が、今すぐ、伝えてね?」
「しかし――」
「今すぐ! 伝えて、ください。分かりましたか?」
「……分かりました」
私が肯定の言葉を発すると、南原さんは満足したように足取り軽く、スタジオへと戻っていく。
拳を握り締め、その後ろ姿を見送る。
百坂・東都のグレーゾーンには、ある人気コーナーがある。
その名も『真っ二つに切り刻め!』。
ありきたりな言葉で言えば、お悩み相談コーナーだ。
リスナーから二択で回答できるお悩みを募集し、パーソナリティーの二人が二択のどちらか必ず選択するというコーナーだ。
それだけ聞くと、特別変わったコーナーではないのだが、問題は、結論を出す際、『リスナーから指定されたキャラの声』をその場で作ることになっている点だ。
自分の悩みをキャラ声で解決してくれるということで、リスナーから最も人気を集めているのだが――今の彩花には対応できないコーナーだ。
それを、南原さんは「やれ」と言う。
南原さんは、正しい。
彩花が声を作れなくなってから、既に二週間以上が経過している。
人気コーナーであるため、それまではほぼ毎週のようにやっていたコーナーなのだ。昨年、彩花が活動休止した期間を除けば、このコーナーが二週間連続で間が空いているのは番組史上初めてかもしれない。
もし、これから収録する来週分も、コーナーを避けるとなれば、間違いなく番組そのものに影響する。南原さんの指摘通り、ファンの間で疑問の声があがっているのも知っている。
このまま、ずるずると引き伸ばすわけにはいかなかった。
言い方はアレだが、南原さんは正しいのだ。
正しいのだが――。
彩花の状態を考えると、どうやっても、無理を強いる形になってしまう。
どう説明するか、私は必死に考えながら、彩花たちが待つスタジオへ戻った。




