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第四章ー5

「彩花、北条さんも。南原さん来たよ。挨拶しに行こう」

 噂をすればなんとやら。

 スタッフさんと話をしていた悠が、いち早く南原さんの登場に気付き、こちらにも声をかけてくる。

「そうだね」

 彩花は答えつつ、座っていた席から立ち上がる。

 普段よりも、ピンと背筋が伸びていた。

 俺は二人の前に立ち、先導する。

 南原さんは入り口付近で他のスタッフと話をしていた。

 顎一杯に髭を携え、黒縁の眼鏡をかけている。私ほどの身長はないが、筋肉質で、がっしりとした体つきが特徴的だ。遠目で見ている分には、にこやかで優しそうなおじさんだが……。

 私は、意を決して話しかける。

「南原さん、お世話になっております、北条です」

「ああ、北条さん。お疲れ様です。……お、百坂さんと東都さんも、お疲れ様です」

 二人とも、ぺこりとお辞儀をする。

 南原さんはにこにこしながら彩花のことを舐め回すようにじろじろと見て、

「百坂さん、痩せた? 大丈夫?」

 にこにこした笑顔のまま、そんなことを言う。

「大丈夫です。すみません、ご心配をおかけして――」

「ああ! いいよいいよ! そういうの、なしなし!」

 南原さんは、大袈裟なほど、ぶんぶんと手を振る。

 がりがりと頭をかきながら、


「いやー、でも大変だね。おばあちゃんのこと。聞いたよ? あまり無理しないでね、俺もなるべく、百坂に無理して欲しくないし。なんなら、グレーゾーンの収録も配慮するからさ。ゆっくり休みなよ? 他の仕事にも影響出るでしょ。百坂さんは、もう売れっ子声優なんだから、ファンのこととか、いろいろ考えないとだもんね。大変だよね。あ、俺も、できる限り協力するから! うん、大丈夫だよ、百坂さんの周りには味方が一杯いるから安心してくれていいよ。ほら、北条さんも、東都さんもいることだし、本当に、無理はしないでね」


 南原さんは、一息でそれだけ喋り、ようやく間を置く。

 にこにこした笑顔のまま、「ね?」と念を押すように、彩花と、隣にいる悠、そして私にも、ぎらつく視線を送って来る。

「はい。ありがとうございます」

 彩花は営業スマイルを携えたまま、それだけ返す。

 私も、「ありがとうございます」と頭を下げる。

 南原さんは満足したらしく、うんうんと頷き、他のスタッフのもとへ歩いて行く。

「あのオジサン、なんなんですか」

 悠がぼそりと呟く。

「賑やかな人、だよね」

「賑やか? うるさいの間違いでしょ?」

 彩花のフォローを、悠がかき消す。

「グレーゾーンの収録も配慮するとか、休みな~、とか、調子の良いことばかり言って、全然彩花の気持ちを考えてないじゃん。あのにこにこした顔を見るだけでイライラするんだけど」

 その言葉には、彩花も苦笑いだ。


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