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第三章ー9

     ◆



 氷のような、あるいは槍のような。

 一瞬で応接室を冷たい空気に変えたその声の持ち主は、彩花の親友であり、同じ声優でもある、東都悠その人だった。

「桜川さん、申し訳ないですが、あたしはまだ、あなたのことを信用していません」

 続けられた言葉に、俺はたじろぐ。

 彩花と北条さんが、諌めるような鋭い視線を彼女へ向けるが、本人は気にした様子がない。

 切れ長の目をこちらへ向け、鋭い視線を送って来る。

「あたしは、彩花や北条さんのように、あなたが個人的に書いた手紙を読んだことはありません。番組に送られてくるメールは目を通していますが、それだけではあなたという人間を把握するのは困難です。これまでのやり取りや、彩花や北条さんに聞いていた話から、悪い人ではないことは分かります。ただ、このまま、お願いします、分かりました、と話が終わってしまうのは、あたしは違うと思います」

 彼女はスマホを取り出し、俺に見せてくる。

 見慣れた画面だった。

「彩花のSNS、知っていますよね?」

「はい」

「今、彩花のフォロワーさんが何人いるか、桜川さんは把握していますか?」

 フォロワー、つまり、彩花のSNSを把握し、それを見ている人の人数だ。

「約、二十万人です」

 即答する。

 ファンの一人として、彩花の人気は把握していた。

 二十万という数字は、SNS使用者全体を見渡しても、かなり多い方に入る。

 何十年、何百年後も語り継がれそうな、超ド級の人気声優は別だが、アイドル声優として人気を博している中でも、彩花クラスの人間はそうはいない。

「その通りです。二十万人全員が彩花の大ファンではないでしょうけど、それだけの人数が、彩花の動向を見守り、例えファンではなくても、興味を持って見ているということになります。この意味が、あなたに分かりますか?」

 悠は、そこで一度言葉を切り、冷たい口調のまま、語る。

「彩花本人は、『声がでないままでもかまわない』、なんて言ってますけど、それでは困る人が、二十万人もいるんです。あたしは介護のことはよく知りません。骨折の件に関しても、仕方のないことだったと説明されれば、そうなのかもしれない、と思います。ですが、桜川さんが関わっている間に、彩花のおばあちゃんは怪我をして、桜川さんが関わっている間に、認知症が進み、彩花は重大な決断を迫られているんです。……もう一度、よく考えてから、答えを出していただきたいです」

 切れ長の目がさらに細められ、半ば、睨み付けるような――いや、実際、睨み付けられているのかもしれなかった。それほど、彼女の眼には圧力があった。

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