第三章ー7
「桜川さん」
彩花の気が済んだと見て、北条さんが代わるように話に入る。
「現状の確認ができたところで、話を進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……はい」
よろしくはなかったが、そう答えるしかなかった。
俺の頭の中は、後悔と罪悪感で一杯だった。
西条ヨシさんの認知症を進行させるきっかけを作ったのは間違いなく自分で、今、すがるような顔で質問してきた彩花を、沈黙させてしまったのも、自分だった。
何度目になるか。「仕方ないことかもしれないけど」と心の中で唱えてみるが、効果はなかった。
いっそのこと、お前が悪いのだと罵倒された方がすっきりするんじゃないかと思ってしまう。
これ以上、なにを話されるのか。
身構えていると、北条さんは当たり前のような口調で、
「こちらの勝手な都合を押し付けて申し訳ないのですが、桜川さんには、これまで通り、西条さんの様子を報告していただきたいと思っています」
そう仰った。
え? と言う俺を置き去りに、北条さんは話を進める。
「私としては、こういう状況ですし、今の桜川さんの話を聞いていても、彩花には一度、全ての活動を休止し、地元へ戻り療養を、と思っているのですが――」
「それはダメ!」
弾かれるように、彩花が反応した。
今日一番の大きな声だった。
北条さんは構わず話を続ける。
「と、彩花本人が言っているので、西条さんを近くで見ている方から、どんな様子なのか、状況を知りたいのです。勝手なことを言っているのは重々承知しています。上司の方にも、こちらからきちんとお話しして、許可を頂く予定ではありますが、まず桜川さんが了解していただけるか、確認させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
北条さんは至極真面目な顔をして、いかがでしょうか? と言うが、いかがもなにもない。
問題などあるわけがなかった。
むしろ、何故、中止を宣言されないのか。
これまで自分が犯してきた罪を考えるのなら、辞退すべきではないだろうか。
「えっ……と」
素直に頷いて良いものか判断に迷っていると、北条さんは俺が気にしていることを察したのか、相貌を崩す。
「私と彩花、そして所属事務所とも話し合って決めたことです。彩花の強い希望で、キャラクターの声を使わなくても良い仕事――ラジオ番組などがメインになりますが、そちらは続けることになりました。それについては関係各所へ既に話を通してあり、彩花は東京での活動を続けていく予定です」
驚く。
大丈夫なんですか、と言いそうになり、慌てて飲み込む。
『声が出ない』なんて、そんな状況になったら心が折れてもおかしくない。昨年、同じ状況になった時は、全ての活動を休止していた。
周囲の反応や、なにより彩花本人は大丈夫なのだろうか。
二度目となれば、また同じことが起こるのでは、と邪推する者もいるだろう。中途半端に出て来るくらいなら、休めと断じる人も中にはいるはずだ。
回復が遅くなる可能性も否めない。
声が作れないというハンデを抱えた状態で仕事を続けることは、精神的にも大きな負担となるはずだ。
北条さんの言う通り、俺も、休むべきだと感じる。
なのに、彩花は続けると言う。




