第三章ー3
「では、本題に入りたいのですが、良いでしょうか?」
改めて自己紹介をし、お互い、なんとなく交流を深められたところで北条さんが切り出す。
そこでようやく、ふかふかのソファへ身を沈める。
彩花はもう悠の手を握っていなかったが、自分のスカートのすそをぎゅっと握り締め、終始不安そうな様子だった。
「これからお話しすることは、業界内でも一部の者しか知らない情報です。彩花のことをよく知り、彩花の祖母である西条ヨシさんのことも知っており、なおかつ、現役の介護士として活躍中の桜川さんだからこそ、お話しすることです。その点、理解した上で聞いていただければと思います」
「分かりました」
即答する。
言われなくても、というやつだった。
俺は言葉だけでなく、念を押すように北条さんの目をしっかりと見つめ返す。
「……では、こちらをご覧ください」
北条さんは、意図が伝わったことを確認し、タブレットとイヤホンを渡してくる。
「えっと……?」
戸惑いつつ受け取ると、北条さんは「見て頂くのが一番早いので」と言う。
「現在の、彩花の状態です」
タブレットに表示されているのは、一つの動画だった。
俺は言われるがまま、イヤホンを装着する。
一体なんの動画だろうか。
再生ボタンを押す。と、見慣れた光景が画面に広がった。
彩花の個人動画番組、『百ラジ』だった。
普段の配信と違う点があるとすれば、明らかに編集前であること。見慣れた光景ではあったが、カメラ位置、ピントが少しずれている。彩花の他にも、スタッフさんが映り込んでいた。
程なくして、普段のカメラ位置へ調整され、撮影開始となる。
彩花は、これまで見たことのない服を身に纏っており、話している内容も、聞いたことのないものだった。おそらく、つい最近撮影したものだろう。
五分ほどが経過したところで、俺は北条さんへ視線を移す。
彩花に変わった様子は見られなかった。声も表情も雰囲気も、俺がよく知っている『声優・百坂彩花』そのものだ。
北条さんに「あの……?」と問いかけるが、
「しっかり見ていてください」
北条さんはそう言い、自身も、俺が見ている画面を覗き込むように、視線をタブレットに移す。
再びタブレットへ視線を戻し、さらに数分。
彩花はやはり、いつもの調子で喋り続けている。
キラキラとした笑顔を振りまき、リスナーから届いたメールを次々と読んでいく。
「……?」
それが起こったのは、さらに数分が経過した頃。
リスナーからのお便りで、「嫌なことがあったので、○○ような感じで元気づけてください。お願いします!」とキャラの指定があり、そのお便りに応えようとした時のことだった。




