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第三章ー1

 彩花の活動休止速報が流れた翌日だった。

 北条さんから、「彩花と西条ヨシさんのことで相談させていただきたいことがあるのでお会いすることはできないでしょうか?」と連絡がきた。

 新潟を訪れる用事があり、ふれあい西家へ来ることができるとのことだったため、断る理由はない。

 市川園長と松岡主任へも、北条さんが電話で直接連絡したようで、勤務時間中に時間を取り、話し合いの予定が組まれた。

当初、西条ヨシさんに関わることであれば、事業所としてのケア内容にも関わるため、事業所管理者である市川園長か、介護現場の取りまとめ役である松岡主任が同席する案も出たのだが、北条さん、及び、彩花本人から強い希望があり、俺が代表で話を聞く形となった。

 西条さんが転倒したあの日から、北条さんは繰り返し、「大丈夫です」「あまり気にしないでください」と何度もメールをくださっているが、彩花の活動休止という今の状況が、決して「大丈夫」ではないことを物語っている。

 彩花のファンとしては、彩花に直接会い、話ができるだけで舞い上がるほど嬉しいはずなのに、今回ばかりは、不安の方が大きかった。「なんてことをしてくれたんですか!」くらいは、言われても仕方ない。

とにかく、会ったらまずは、土下座でもなんでもして、謝罪から入らなければと思う。

 介護士としても、彩花のファンとしても、申し訳ない気持ちで一杯だった。



 そんな決意は、彼女を見た瞬間に吹き飛んだ。



 ふれあい西家へやってきた彼女を見た瞬間、俺は謝ることすら忘れ、ただただ茫然と立ち尽くしてしまった。

 なんてことをしてくれたんだ、と怒られた方が余程マシだった。

 ふれあい西家へ入ってきた彼女は、『アイドル声優・百坂彩花』とは程遠い姿だった。プレイベートだから、だけではない。マスクの上からでも、やつれているのが分かった。

顔色も悪く、見るからに体調が悪そうだった。

「お仕事中に申し訳ございません」

 北条さんは玄関口で松岡主任と俺に対してそう言った。

 俺は、彩花のことが気になり、「いえ、大丈夫です」と答えるのがやっとだった。

 彩花の隣にはもう一人、付き添いらしき女性の姿があり、彩花は彼女の手をぎゅっと握り締めていた。

 松岡主任の誘導で、北条さんと彩花、もう一人の女性は、ふれあい西家二階にある応接室へ移動する。

「ヒロ、しっかりしろ。仕事だぞ」

 俺が北条さんたちに続いて応接室へ入る直前、松岡主任に強めに肩をたたかれ、喝を入れられる。

 松岡主任も、以前、一度彩花に会っている。

加えて、気さくで話しやすい松岡主任には、何度も彩花のイベントの様子や動画番組を見せていた。

 松岡主任も、ただ事ではないと感じたようだった。

 俺は松岡主任からの喝で我に返る。ぎゅーっと瞼を閉じ、深呼吸をして、それから応接室へ入った。


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