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第二章ー10

     ◆◇◆



 ――彩花活動休止の速報が流れる一週間前。

 私はプロデューサーとして、彩花とともに通常通り仕事に励んでいた。

 意外だった、という感想が正しい。

 そう言うと本人は怒るだろうが、最も間近で彼女を見てきた私にとって、西条ヨシさんの骨折という大事件が、彼女にあまりダメージを与えていないことに、心底驚いていた。

 気にしていないわけではないのだろう。

 事実、その連絡を受けた時、彩花はちょうどアフレコの休憩中で、なんなら、そろそろ再開しますというタイミングだったのだが、「少しの間一人にして欲しい」と希望した。

 正直、また、彩花が壊れてしまうのではないかと心配した。

 昨年、西条ヨシさんが彩花の声を認識できなくなった時、彼女が起こした行動は大変なものだった。精神的なダメージがあまりにも大きく、家に引きこもり、誰の呼びかけにもほとんど応じず、仕事を放り出し、スタッフさんにも多大な迷惑をかけた。

 事情を考えれば、同情の余地はあったが、その行動はあまりにも身勝手で、社会人としての意識を欠いていた。

 同時に、思い知らされた。

 彩花にとって、西条ヨシさんの存在は、周囲が思っているより、あるいは、本人が思っていたよりずっとずっと大きなものだったのだ。

 だから今回の『骨折』という大事件は、また同じことが起こるかも――と思わせるには十分すぎるニュースで、寝耳に水、どころか、寝耳に氷水をぶっかけられたようなものだった。

 彩花が席を外し、一人になりたいと希望した時は、やはりと思ったし、最悪の事態も想定した。

 早めに手を打ち、各所へ連絡するべきか、いや、それは早計すぎる、だがまた同じようなことが起こるならば――と、私は内心大いに焦った。

 が、当の本人はというと、

「中断させてしまって申し訳ございません。大丈夫です」

 ぺこりと頭を下げ、いつも通りの表情で、まるで意に介していない様子で戻ってきた。

 残りの仕事をきっちりとこなし、私が「大丈夫か?」と尋ねても「大丈夫だよ。あまり心配しないで」と満面の笑みで答えるほどだった。

 実際確かに、「大丈夫」だった。

 西条ヨシさんの骨折から二週間、彩花は弱音一つ吐かず、そもそもそんな事故はなかったかのように振る舞っていた。隣にいる私の方が余程心配して、警戒して、そわそわしてしまい、逆に彩花から「大丈夫?」と言われてしまっていた。

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