第一章-1
ふれあい西家は、施設の分類としては、小規模多機能型居宅介護支援事業所――小規模事業所に分類される。
デイサービスと呼ばれる、ある程度一人でなんでもできる老人を集めて、楽しく一日を過ごす場所でもなく、寝たきりの方々の面倒を見る、所謂『老人ホーム』とも違う。
小規模事業所はデイサービスと老人ホームのちょうど中間に位置する事業所だ。基本的には、自宅での生活を主にした方々を受け入れ、週に数回程度の利用をメインとしているが、ご家族の仕事の都合などで泊まりをメインとし、ほとんど家に帰ることのない方々もいる。
「ヒロ、料理頼む。俺は先に休憩入って来るから」
「分かりました。お疲れ様です!」
朝七時出勤の早番業務。
現場介護職員のトップである松岡介護主任が今日の現場責任者、フロアリーダー勤務で、俺はその補佐役だ。
午前十一時過ぎ。主任からの指示通り、御利用者十四名分の昼食を作り始める。
「ああ、そうだ」
休憩室へ向かいかけた主任が戻って来る。
「さっき連絡があったんだけど、午後、西条さんのご家族が面会に来るらしい。早めにご飯出してくれ」
「あ、そうなんですか。じゃあ西条さん優先で昼食を出して、歯磨き、トイレ誘導、居室誘導までしておきますね」
「お、さすが、三年目になるとよく分かってるな。期待してるぞ次期主任候補、桜川智広クン」
冗談半分でそんなこと言い残し、主任は今度こそ、休憩室へ向かっていった。
「そういうことは早く言ってくれよ……」
主任の姿が消えたことを確認してからぼやく。
西条さん、というのはつい一週間ほど前に利用を開始されたばかりの八十歳を過ぎたおばあちゃんだ。
契約上は週に一、二回は家に帰る予定になっているが、ご家族の都合が悪いのか、利用を開始されて以降、ずっと泊まっておられる。
契約時に一度、ご家族が来所されているらしいが、俺はまだ会ったことがない。今日はおそらく、どんな生活を送っているのか、様子を見に来られるのだろう。
「さっさと作らないと」
小規模事業所は職員が料理を作り、提供するところが多い。
ふれあい西家も例外ではない。料理などしたことがなかった俺は就職直後、苦労させられたものだ。
まだまだ、熟練の主婦のように、とはいかないが、三年目ともなれば幾分かマシになる。トントントンとリズミカルに包丁を動かす。