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第二章ー9

     ◆


 西条さんの骨折事故から三週間。

 北条さんから連絡が来ることはなかった。

 事故を起こしてから一週間ほどは、直接連絡を取ろうとしていたのだが、タイミングが悪いのかなかなか繋がらず、北条さんからも「あまり気にしないでください。大丈夫です。彩花もそれほど気にしていません」とのメールが送られてきて、結局はメールだけのやり取りで落ち着いてしまった。

 一応、病院から送られてくる西条さんの状態に関しては、松岡主任から優先的に聞かされており、そのことを北条さんに報告メールとして送っていたが、きっと、『普段の様子が知りたい』という彩花にとって、その情報は有用なものではないだろう。

 俺は、彩花や北条さんと関係が途切れていないことにどこかほっとしつつ、その反面、しっかりとした謝罪もできないまま、いつものと変わらない日々を過ごせてしまっていることに、もやもやとした気持ちを抱えていた。

 ちなみに、西条さんの経過は良好らしい。

 そのことだけは不幸中の幸いだった。手術は無事に成功、今はリハビリ中だ。リハビリに対しても意欲的に取り組んでいるらしく、既に歩けるようになっていると病院から連絡が入っている。早ければ、あと一週間もしないうちに退院し、ふれあい西家へ戻って来られるだろう、とのこと。

 もやもやとしたものを抱えたままではあったが、少しずつ、平穏な日々に戻りつつあった。

 しかし、そんなある日。

「嘘だろ……」

 西条さんの良好な状態とは裏腹に、目を疑うようなニュースが飛び込んでくる。

 昼休憩中、俺は長座布団に寝転がりながら、ぼんやりとSNSを眺めていたのだが、


『彩花、再び活動休止か?』


 そんなニュース速報が流れてきた。

 飛び起き、慌てて公式サイトやブログ、ファンの交流サイトまで、様々な情報を探ってみる。隅々まで、一字一句見逃すまいと、どのサイトもくまなくしっかりと読み込み、調べる。

「……どういうことだ?」

 ところが、いくら調べても、公式からの発表は出されていない。

 どこにもそんな情報は書かれていなかった。

 調べて分かったのは、一年前と同じ現象が起こっていること。彩花が出演予定だった生放送番組やイベントが、ことごとく中止になっていた。

 嫌な汗が流れる。

 北条さんからは「大丈夫です」とメールをもらっていたが、本当は、大丈夫ではなかったのではないか。ずっと電話がつながらなかったのは、俺に構っている余裕がなかったからではないか。

 そんな疑問が浮かんでくる。

 俺は一瞬、「やっぱり電話を」と思ったが、やめた。

 彩花や北条さんと繋がっていられるのは、西条さんの件があるからだ。彩花の様子を聞くために電話するのは、単なるファンとしての行動だ。ルール違反だろう。

「……」

 それでも、気になるものは気になる。

 もし、自分がきっかけを作ってしまったのなら、やはり直接謝罪したかった。彩花に頼まれ、信頼されたというのに、その信頼を裏切り、迷惑をかけている。

 責任があるのは間違いないのだ。地面額をこすりつけて謝りたい。

「あーもう!」

 自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 なにが大ファンだ。

 こんな時、なにもできない自分が嫌になる。

 北条さんの逞しく、頼もしく見えた背中を思い出す。きっと、北条さんは今も、彩花の隣にいて、彩花のことを支え続けているのだろう。

 一年前、彩花が活動休止した時も、俺は同じように「なにかできないか」と強く思ったが、今回は、その時の比ではない。

 自分が直接関わっているのだ。

 奥歯を噛みしめて、ぎゅーっと目を瞑る。



 待つしかないのか――。

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