第二章ー5
◆◇◆
「いつ送ればいいんだ……?」
彩花との電話会談から三日後。
休憩室で悶々としていた。
「二週間に一度程度、西条ヨシさんの様子を報告して欲しい」、「実際にいつ送るかは桜川さんに任せる」、と言われたが、いっそ日付を指定欲しかった。
いつでも良い、と言われると一番困る。
スマホと睨めっこ中である。
「桜川さん、彩花さんとのことですか?」
テーブルを挟んだ向かい側には、ふれあい西家の管理者、市川幸子園長がいる。
ふれあい西家の長たる存在で、俺にとっては、松岡主任よりさらに上の上司だ。
「そうです。園長も聞いておられるんですよね?」
「はい。随分、悩んでいるみたいだけど、大丈夫? 負担になるようなら、こちらからお願いして、やめても――」
「いえ! そういうことではないんです。大丈夫です」
「そう? ならいいけれど」
市川園長の心配をかき消すように、否定の言葉を口にする。
俺自身の心配をしているというより、その件があるせいで、本来の仕事、ひいては御利用者へ影響が出ないかと心配しているのだろう。
事業所の管理者として、当然だ。
市川園長は、ふれあい西家において間違いなく、介護への意識、熱意が最も高い人物だ。
人呼んで、『介護の鬼』。
外見だけなら、近所のおばちゃん、という風貌だ。おでこ丸出しのポニーテールが特徴で、職員間ではよく狸顔と言われている。全体的にふっくらとした体形で、どちらかと言えば、優しそうな雰囲気を漂わせている。
だが性格は、とにかくキツイ。
介護現場で十数年揉まれながら、介護福祉士や社会福祉士といった国家資格を取得し、園長にまで上り詰めたその熱意は本物で、御利用者に関することとなると、小さなミスでも一切許さない。御利用者のためとあらば、職員にどれだけ負担がかかろうと、妥協しない人物なのだ。
良く言えば情熱的、悪く言えば口うるさいおばちゃんだ。
市川園長の介護に対する姿勢は尊敬しているし、見習わなければと思っているが、今回の件に関しては、必要以上に口出ししないで欲しかった。
仕事の一部とはいえ、せっかくできた彩花との繋がりを失いたくない。
俺は、とりあえずメールについて考えるのはあとにした。
「そう言えば、園長、次の行事なんですけど」
「ああ、その件なら、松岡さんから聞いてるわよ。確か、イチゴ狩りのことよね?」
「そうです。ちょっと確認したいことがあるんですけど――」
市川園長は、休憩中であろうと、介護の話となればすぐに相談に乗ってくれる。
本当に、このあたりの姿勢は職員として素直に尊敬できる。
ありがたい上司だった。




