第二章ー3
◆
「状態報告、ですか?」
「そうです。桜川さんの仕事が一つ増えてしまう形になるので、迷惑であれば断っていただいて構わないのですが……」
耳元で大好きな人の、大好きな声が響く。
そこだけ切り取れば至福の時間だったが、話している内容は至極真面目な事柄だった。
用件は予想通り、彩花の祖母である西条ヨシさんについて。
通話越しに北条さんや他のスタッフさんらしき方々の声も聞こえてきている。仕事の合間らしかった。
彩花が望んだことは、ただ一つ。
西条ヨシさんの近況報告。
体調がどうとか、食事の摂取量がどうとか、そういった事務的な観察事項ではなく、現場の介護職員しか知ることのできない、なんでもない普段の様子を知りたいというものだった。
「その程度のことであれば大した手間ではないですし、問題ありません。こちらの上司も既に了解済みのようですし、喜んでやらせていただきます」
「あ、良かったです。よろしくお願いします」
俺は布団の上で正座したまま、応対する。
用件に関しては、市川園長、松岡主任両名から許可が出ていることだ。大好きな人からの頼みを、断る理由がない。
それは、良いのだが。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
通話開始以降、戸惑っていた。
プライベートのお願いだ。声優として活動している時のように、明るく元気に、和気あいあいと話してくれ、とは言わない。そもそも、明るく話す内容でもない。
ただ、だとしても、彩花の声に張りがないように感じた。
CDお渡し会で会った時の彩花は、
「あ、サクゾウと申します」
「ああ! サクゾウさん! いつもメールありがとうございます」
「いえいえ、いつも元気をもらってます」
「あはは。そう言ってもらえて嬉しいです」
「えっ……と……」
「あれ? 緊張してます?」
「あ、はい。物凄く緊張してます」
「あらら……。サクゾウさん、いつも大量にメール送ってくださってるので、陽気な人だと思ってましたよ」
「い、いやそれはメールだからで……」
「そういうものですか?」
「はい……あの、すみません。上手く話せなくて……」
「あはは。いいじゃないですか? 無駄に馴れ馴れしく話しかけてくる人より、よっぽど好感持てますよ。いつもありとう!」
という具合で、楽しく優しく、賑やかに、対応してくれた。
そんな彩花を知っているからこそ、この沈黙が重い。




