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第二章ー2

 番組宛てにメールを送っているので、こちらのアドレスは知られている。向こうから送られてきても不思議ではないのだが、問題はその内容だった。眠気を吹き飛ばすどころか、思わず布団を跳ね除け、その場で正座して読んでしまうくらいにはびっくりする内容だった。

 端的に言えば、こうである。


 お願いしたいことがあるから、電話で直接、彩花と話してくれないか。


 こっちは数年間に渡り、彩花を応援し続けてきた大ファンなのだ。トークイベントやライブには何度も行っているし、関連グッズも大量に持っている。彩花のことなら誰にも負けないくらい深く知っている自信があるし、夢に見てしまうくらい、本当に本当に、大好きなのだ。

 その彩花と、話ができる。

 これほど幸運なことはない。

 生きていて良かった。

「いや、待て待て待て」

 そこまで考えて、一度、深呼吸する。

「……西条さんのこと、だろうな」

 彩花と話ができることは嬉しいが、俺と彩花の接点と言えば、西条ヨシさんしかない。今をときめくアイドル声優が、一人のファンに対して個別でなにかをするなんてあり得ない。

間違いなく、『ふれあい西家の介護職員』の俺に用があるはずだ。

 深呼吸を十回ほどは繰り返し、そうしてからようやく、返信画面と睨めっこする。そこでふと、これは嵐園長や松岡主任は知っていることなのだろうか、と疑問に思う。

 介護職は個人情報を扱う職業だ。相手が家族とはいえ、一介の介護職員が許可なく御利用者に関することで動くことはできない。特に、相手は芸能人と遜色ない知名度を持っている人物だ。

 俺個人としては今すぐにでもオーケーしたいが、そうもいかない。慎重に返事をする必要がある。

「ん? 主任から?」

 さて、どうしようかと迷っていると、タイミング良く松岡主任から電話がかかってくる。

「お疲れ様です。桜川です」

 すぐに出ると、松岡主任は挨拶もそこそこに――


「西条さんのお孫さんから連絡いってるか? その話、園長も俺もオーケー出してるから、話聞いて、お前が判断してくれ」


 と仰った。

 そして、仕事中だからとすぐに切られてしまう。

「……」

 なんだかよく分からなかったが、俺の関与しないところで話がまとまっていることだけはよく分かった。

 深く考えることをやめる。

 北条さんへ、いつでも大丈夫です、と返信をすると、ものの数分も経たない内に返事が来る。

「え、今からっ?」

 返ってきたメールには「もしよろしければ今からお願いできますでしょうか?」と記載されていた。

「……こんなチャンス、逃すわけには!」

 舞い上がる気持ちは止められない。

 俺は指を高速で動かし、電話番号を添付、送信した。

 十数秒後、俺はアイドル声優、彩花との電話会談を行っていた。

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