第二章ー1
彩花と北条さんがふれあい西家に訪れてから早二ヶ月。
俺は変わらぬ日常を過ごしていた。
「ヒロ、小林さんの薬は?」
「セットしてあります。あ、山口さんの分も終わっているので今日の分の薬は完了してますよ」
「了解。じゃあ俺は排泄入って来るわ」
「お願いします」
介護職、と一言で言ってもやることは多岐に渡る。
特に、ふれあい西家のような小規模事業所は、自身で歩くことができないような御利用者もいれば、歩行、食事、トイレ、歯磨きなど、ほぼ全てのことを自分でできる御利用者まで、幅広い方がいる。一人一人に合わせた介護が必要になる分、やること、考えることがとても多い。
「はいどうぞ」
「ああ、ありがとうございます」
俺は洗面台で手洗いを終えた御利用者に手拭き用のティッシュを渡す。
この御利用者は、ほとんどのことを自分で行えるが、腰の調子が悪く、手の届きにくいところにあるものや、座った際の姿勢保持に少しだけ補助が必要となる。
御利用者それぞれで、介護しなければならない部分が違う。介護と一口に言っても、一人一人に合わせた対応が必要となる。
「……」
テーブル席でいつも通り、にこにこ笑顔でテレビを眺めておられた西条さんの姿が目に映る。
西条さんもこちらの視線に気付き、笑顔のまま「なにか?」と視線を送って来る。俺は身振りで「なんでもないです」と伝え、次の仕事へ移る。
分かっていたことだが、いくら大切な肉親のためとはいえ、彩花ほどの有名人がそう何度も来られるわけがない。
先日、百ラジの企画で、彩花が地元ロケを行ったとブログで掲載された。おそらく、ふれあい西家に訪れたあの時だろう。
もしかしたら、近いうちにまた会えるかも、などと期待してしまったが、現在、東京に住んでいる彩花が、仕事以外でそう何度も地元へ来られるはずがない。
結局のところ、手元に残ったのは帰り際に北条さんから渡され名刺だけで、俺との出会いは、番組やブログ等で取り上げられることもなかった。
北条さんからもらった名刺に、メールアドレスが書かれていたが、北条さんが名刺を渡したのも、俺がふれあい西家の職員だからだろう。一人のファンとして、御礼メールを北条さん宛てに送ろうかとも思ったが、ルール違反な気がしてやめておいた。
俺は一抹の寂しさを感じつつも、平凡な日常を送っていた。
はずだったのだが――。
「は? えっ、はあああああ?」
さらに一週間ほどが過ぎた頃。
一人暮らしのアパートで、夜勤明けの眠い目をこすりながら布団の中でのんびりスマホをいじっていた時のこと。
突然、北条さんからメールが届いた。




