カウントダウン
ヒロインランキング企画作品です。
急遽参加させていただきましたので、よろしくお願いします。
「――CMの後は、第10位! その前にお天気です!」
テレビから情報番組が流れている。
明日は晴れるらしい……花粉も多く飛んでいるだろう。
俺は右のこめかみに当たる物から気を逸らしたくて、テレビに集中する、フリをする。
「……ランキングだってよぉ。なぁ、お前の人生で、ランキングに載るオンナって誰だ?」
こいつは一体、何を言っているのだろう?
そう思った途端、グリグリとこめかみのブツを強く当ててくる。
「……何の話ですか?」
「ワカンねぇのか? じゃあ、第5位な。ゲームでどうよ? オレは、ドラクエVのビアンカだ。ゲームのストーリー展開の中で、どう考えても主人公の幼馴染のビアンカ一択だ。異論は認めねえ」
こんな時に、何を言ってるんだこいつは。
どう考えてもフローラだろうが。ゲームの攻略を考えてもそれしかない。
デボラ? 未プレイだね。
だが、怒らせたらまずい。
「……ああ、ビアンカですね。わかります。主人公より2つ年上で、初めて会った時はちょっとおませさんな8歳の女の子。再会した時は、ドキッとするくらい大人びて、でも子供の時の性格のままで……。幼馴染モノとしても、姉さん女房としても、良い設定ですよね」
「ワカッてんじゃねえか。幼馴染の良さを!」
少しだけ、当てられてる力が緩む。
ほっとしたのも束の間、すぐにまた、くぐもった声で聞かれた。
「じゃあ、第4位といこうじゃねえか」
なんだと?
一体、何を考えているんだ?
「……ジャンルは何ですか?」
かすれた声が出る。
覆面で顔も見えないこの男。
何の目的で俺に銃を当てているのか?
「ああ、ジャンル決めてなかったな。ワリイワリイ、こういうのはキチンとしねぇと」
そう言って、少し考え込む。
「こういうのはどうだ? 小説、アニメ、漫画、小説家になろうの作品からヒロインを選ぶこと。ゲームはさっき出したから、除外な?」
「……つまり、そのジャンルから1つずつ、さらに順位付けて選ぶということですか?」
「そういうことだ。1度出したジャンルからは選べない。どうだ? 第4位!」
俺は混乱する頭で慌てて答える。
「ええと、蜘蛛ですが、何か? の蜘蛛子ですかね。最初に小説家になろうにハマったきっかけの作品です。異世界転生で下剋上、ただし転生先はモンスターだった。そして、その世界でのルールを知る。伏線もさることながら、蜘蛛子の性格が面白い。ほとんど喋らないのに、脳内はものすごく回転していて、蜘蛛子の主観でほぼ話が進む。人間離れしてるのに、恩人には義理堅い。外見サギですが、魅力的なヒロインですね」
「ほう、小説家になろうからきたか。確かに、あの作品はヒロインの魅力にかかっている。ワカッてんじゃねえか、悪くない」
俺はホッとする。相手の機嫌は悪くない。
「じゃあ、第3位といこうか! ゲーム、小説家になろうは除外な」
テレビでは今流行りのスポットランキングをやっている。
俺は見知らぬ男とヒロインランキングをやっている。
「……小説でいきましょう。十二国記の、図南の翼から、珠晶。王が立たず、ゆるゆると崩れる自国を案じ、単身王選へ向かう12歳の子。その心意気、頭の良さ、そして過ちを犯しても立て直す勇気、才気。何より王になる直後の台詞。格好良すぎますね」
「ほう。あの作品は、色々な異世界の国の王と、その国の在り方が練られた良作だな。珠晶を選ぶのはわかる気がする……アイツもそういうやつだったからな」
アイツ? 何だ、鼓動が速まる。
手が汗ばんできた。
アイツとやらを、俺は、知っている?
「よーし、じゃあ、第2位だ! 残りは漫画とアニメだな!」
銃を突きつけられ、疑問を無視し、俺は懸命に考える。
「……漫画でいこう。ハーメルンのバイオリン弾きのフルート。村娘だったフルートは、勇者ハーメルに騙されてついていくのだが、実は王女と分かり、さらに回復魔法が使えるようになる。15歳でパーティーの要として、全員の母親的存在になる。また、ギャグ担当にもなれるという、作者が本当にこのヒロイン大好きなんだなと伝わる作品だ。ちなみに、続編も刊行中だな」
動揺した俺は、友人に話す時の口調をしてしまっていた。
まずい?!
「あー、ハーメルンな。そうだな、オマエも好きだったもんなぁ。アイツが先にハマって、そこからオマエと俺に、貸してくれたんだぜ?」
アイツが俺に貸してくれた?
なんだろう、頭が痛む。
俺は、この銃を持った男を、誰だか知っている??
「もう少し、か? よーし、第1位! 最後はアニメだ!」
ヒロインランキング。アイツと俺と、もう1人。いつも3人でやっていた遊び。
なんだ? なんだ? なんだ?!
「1位は……1位は! らんま1/2の天道あかねだ。不器用ツンデレ美少女で、笑顔がメチャメチャ可愛い子。俺は最初はヒロインのライバルのシャンプーが好きだったが、だんだんあかねが好きになった。アニメの日高のり子さんの声が好きだから、この1位はアニメ版だ。映画の可愛さもたまらない。CDも持っている! そう、アイツによく貸して、あと、おまえにもよく貸してた……だよな?」
俺は思い出した。なんで忘れていたのかも思い出した。
そうだ、俺は、俺たちは。
「……そうだ。なんでアイツは、オレか、オマエか、じゃなかったんだろうな。いつも3人一緒で、このまま大人になって、アイツはオレかオマエを選ぶんだと思っていた……」
目の前の男が覆面を外す。
俺の知ってる顔、大親友にして、幼馴染の1人。
「なんで、アイツは……行っちまったんだろうなぁ……」
そう、幼馴染のもう1人。
俺と目の前のこいつが惚れた俺たちのヒロイン。優しくて、面白くて、勝気で、頭が良くて。
可愛くて、時々弱いとこもあって、そこがさらに可愛くて。
そんなアイツに同時に告白した俺たちは玉砕した。
そしてアイツは……タイに行き、男になって、結婚した。
俺は、ショックで引きこもり、もう何日も何日もボンヤリしていたんだった。
「オマエ、オレのこともワカンなくなっちまってて、危険を感じれば戻るかなって。ワカルか? オレのこと、アイツのこと!」
大親友が俺に銃を向ける。
引鉄を引くと、中から水がぴゅっとかかった。
「なぁ? オレが、水をかぶって、オンナになれれば良かったのか?」
それは無いと思う。
俺は、水なのかなんなのかわかんなくなった水分が顔中にあふれて、気付けば幼馴染の大親友と抱き合っていた。