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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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94 鳥の国から 夏の終わり  1995年10月

すずがも通信94 鳥の国から 1995年10月


 いやあ、いつまでも暑いですねえ。連日35℃、というすさまじい猛暑は一段落したものの、まともな雨はさっぱり降らないし、さすがに音を上げています。昨年ほどの暑さはもう当分ないはずだ、と信じていたのに。今年はずっと湿度が高く、かっと照りつける強烈な夏の太陽というものをほとんど経験しないかわりに、蒸し暑さはたまりません。傷病鳥舎の廊下の最高最低温度計をのぞいては、あ、もう37℃を越えたよ、とか、33℃だからまだましだね、とか言い合っています。

 暑い暑いと言っても、秋の気配は確実に近づいています。8月20日を過ぎると、虫の音が急ににぎやかになってきました。最後の脱皮を終えて羽がそろったコオロギ類、カンタン、カネタタキなどが鳴きはじめたのです。暑くて寝苦しい夜も、虫たちのオーケストラを聞いていると、いつの間にか涼しい夢の中に。

 干潟にシギやチドリがまあまあの数で見られるのも、今年のありがたいことの一つ。三番瀬の干潟からの「おすそわけ」のようなものでしょう。メダイチドリ、ソリハシシギ、アオアシシギ、キアシシギ、チュウシャクシギ、キョウジョシギなど。メダイチドリは潮が低い時にはいつでも見られ、結構しっかりとゴカイをとっています。ぱくっとくわえ、慎重に穴から引き出すと、たいてい潮だまりで泥をさっと洗ってから呑み込みます。せめていつもこのくらい鳥がいて欲しい!

 8月に入ってから、とうとうカワウの巣を見つけました。湾岸道路沿いの「新浜海溝」-埋立時に土砂を掘って水深が深くなっているためこの名がついたーには、おそらく工事の時のボーリングか何かの跡らしい太い丸太でできた大きなやぐらがいくつかあり、大半はくずれてしまいました。残っているやぐらは3つだけで、どれも長くは持ちそうもないのですが、アオサギやカワウが止まり場によく利用しています。このうち2つでそれぞれ1巣ずつ、カワウが巣を作りました。大挙して引っ越してこられても困るけれど、とひやひやしながら、いちおうは喜んでいるところです。

 乾燥した気候のせいか、水辺を生活の場としているカイツブリや、なんとツバメまでが餌をとれず、徒歩で引越の途中で弱ったカイツブリのヒナとか、親がいるのに餌を運んでこないため落ちたツバメのヒナの来所が相次ぎました。こうした年は夏の終わりのボツリヌス菌による中毒も多いので、これまたひやひや。

 なんとなくうれしそうにしているのは、アメリカシロヒトリやアオドウガネといった葉を食べる昆虫たち。セミも比較的多いようです。桜につく甲虫といったら、10年前は圧倒的にまっ黒なオオクロコガネが多かったのに、今年は美しい緑色に光るアオドウガネばかり。食事中にぶんぶん飛び回って電灯の笠からほこりを落としてくれるのが困りもの。傷病鳥舎ではゴキブリがものすごく増えて、早く燻蒸消毒をしなくちゃ、とあせっています。

 6月に後半身不随で持ち込まれたフェレット君(ケナガイタチ;ヨーロッパ産で家畜化されている)。幸い傷がなおって元気いっぱい。傷病鳥舎の廊下を独り占めし、冷房のきいた図書室で遊んだり、とみなにかわいがられていましたが、ようやく貰われて行きました。一人で夜の治療室に残って餌をやっていると、彼がかわいい顔で「遊ぼうよ」と金網ごしにのぞき込むような気がまだします。


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