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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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81 鳥の国から  妙典区画整理組合とコアジサシ  1994年6月

鳥の国から  妙典区画整理組合とコアジサシ  すずがも通信86号 1994年6月


 スイカズラ、トベラ、ノイバラ、センダン、ニセアカシア、シャリンバイ。木の花ざかりです。窓を開けると清冽な花のかおりが漂ってきます。日が落ちて、遠くでオオヨシキリが鳴き、近くではクビキリギスがジ――ッと鳴きたて、よく注意していると足もとでオケラのひそやかなジ――――と鳴く音が聞こえ、スイカズラのかおりがひときわ強くなるころ。ほんとうにぜいたくなひとときです。

 つい今しがた、たぶん、とってもうれしいことがあったのです。妙典の区画整理工事が今盛んに行われています。5月8日の新浜探鳥会の時、工事現場の中でコアジサシがコロニーを作っているらしいという話がありました。市川市内でのコアジサシの繁殖例は、このところずっとないのです。コアジサシは裸地に巣を作る鳥でもともとは川原の中州や海岸などで繁殖していました。しかし、上流にダムができて水量が減り、中州に木や草が生えたり、河川敷が公園やゴルフ場になったり、バイクや車が入るようになって、コアジサシは河原から追い出されてしまいました。

 そのころ、東京湾をはじめとする各地では海岸の埋立工事が盛んに行われ、広大でひと気がなく、草もまだ生えない埋立地があちこちにできました。餌場の海にも近いので、コアジサシにとってはちょうどよい繁殖場となり、大きなコロニーができたこともあります。しかし、埋立地に草が生えたり、工事が進んで本来の用途である建物や道路が作られれば、コロニーの寿命はおわりです。

 巣が作れる場所はどんどん限定され、数年前は幕張メッセの臨時駐車場に大きなコロニーができたほどです。やはりコロニーがあった浦安市の入船地先にも公団住宅ができ、今年は繁殖ができるのかと心配されていた矢先でした。

 しかし、妙典地区はスーパー堤防の造成工事が始まっています。コロニーがあるらしい造成地も、そのまま放置される場所ではないはずです。とりあえず、まず妙典の区画整理組合に電話を入れたところ、一緒に現場を見に行きませんか、と言われ、今日行ってきたのです。

 まさにまさにコアジサシのコロニーがありました。造成用に確保された土砂を1mほどの高さ、広さは50m×150mくらいに積んだ段が6,7枚、平らにならす工事が3月末に終わったばかりとのことで、まだ草もほとんど生えていません。すぐそばには1haほどの浅い池もあり、ヨシやガマが生えて、見るからにコアジサシが好みそうな場所です。1枚の段につき、ざっと歩いてみただけで5~10の巣が見つかりました。大半の巣は卵3個がそろっており、おそらく100以上ものコアジサシの巣があると思われます。

 「鳥たちが無事に巣立てるように、できる限りのことはしますよ。工事の都合でやむなく一部の土砂を動かすことになるかもしれませんが、時期とか場所についても、最大限配慮します」

 ひとむかし前であれば、「日程がありますから。鳥より人の都合が優先です」のひとことで終わった話です。

 妙典区画整理組合の方も、建設省江戸川工事事務所の方も、これ以上ないほど好意的に接してくださいました。妙典出身のコアジサシ、1羽でも多く無事に巣立ち、ニューギニアへの渡りに飛び立ってくれますように。



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