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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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8 野鳥病院の10年(「よみがえれ新浜」1986年)再録 3  蓮尾嘉彪

8 野鳥病院の10年(「よみがえれ新浜」1986年)再録 3  蓮尾嘉彪


 6月はカルガモのヒナが持ち込まれる月でもあります。急激な宅地化が進んでいる千葉県各地では、草むらでかえったカモのヒナが安全な池や沼にたどりつくのは至難のわざ。親子ともども人家に迷いこんだり、道路のまん中で立ち往生したり、U字溝や矢板で固められた深い池に落ちて上がれなくなったりします。保護区の一角にある湊排水機場の遊水地では、1980年ころまで、毎年百羽かそれ以上のカルガモのヒナがとびこみ、水から上がれずに凍死していたようです。

 親が飛び立ってしまうため、カルガモのヒナを捕えてから親に戻してやるのはむずかしいようです。拾ったヒナはたいていぬれて冷えきっているので、親がすぐに戻って抱いてやらないと凍死してしまいます。そのため、やむを得ず収容して養う場合が多いのです。

 冷えきったり、泥水に汚れたヒナは、まず洗面器のお風呂で十分暖めてやります。そのあと水をふきとり、ドライヤーでふわふわに乾かしてから、発泡スチロールのトロ箱2つとヒヨコ電球を使った保温箱に入れて育てます。初めの10日ほどは金魚にやる浮餌ー(スイミーミニ)を与え(たいてい最初は詰めこんでやる。中には初日からスイミーをぱくぱく食べるのもいますが)、それから鶏の餌に切りかえて行きます。ずっとスイミー中心だと、風切羽の羽軸がのびるころ、翼がぐにゃりと下に垂れ下がる症状が出てしまいます。

 ふ化から飛べるようになるまで10週間ほどかかりますが、2ヵ月前後で体つきがしっかりするので、標識リングをつけて水路に放鳥します。時々、飛べるようになったヒナたちが餌ほしさに庭の中に舞い下り、鶏と一緒に食べている光景も珍しくはありません。

 野外では2組の親子がすれ違う時、ヒナがまじり合うのをよく見ますが、ふつうはちゃんと自分の親の方へ泳いで行きます。一度、1羽のヒナをカルガモの家族に押しつけようとしたことがあります。でもお互いはっきり区別しているらしく、家族に受け入れられないまま、そのヒナをむざむざと見殺しにしてしまう結果に終わりました。

 7,8月になると、独立したてのコサギやゴイサギの若鳥が、人家にとびこんだり、お腹をすかせたり、油まじりの水に落ちたりして入院してきます。

 ヒナたちの世話が一応終わりになる8月末ごろ、秋の渡りが始まります。11月初めまで、この時期は衝突事故による入院に明け暮れます。渡り途中のキビタキ、ムシクイ類、ツツドリ、トラツグミ、ウミネコなどが常連で、野外ではめったに見られないヤマシギやオオコノハズクなどもたいてい毎年持ちこまれています。窓ガラスや電線にぶつかるもののほか、室内に迷いこむものも結構います。特にこの秋は9~11月にかけ、月に30羽の割合で入院があって驚きました。

 窓ガラスにぶつかって目をまわした鳥には、軽い脳しんとうを起こしただけのものから、頭骨陥没、脳内出血等様々な段階があります。脳しんとうだけなら、数時間安静にするだけで回復するので、ミルウォームなどの軽食をとらせたのち、空へ放します。頭部がひしゃげたり、目の中に出血があったりするものは、ひっくり返って立てなかったり、旋回飛行をしたり、えさをとる意欲を全く見せず、1ヶ月以上も強制給餌を続けたものもありました。それでも1週間以上生きのびたもののうち、かなりの個体が、長期間養っているうちに自力で餌をとりはじめ、やがて放鳥できるようになりました。脳内の出血が吸収されたり、損なわれた脳の機能を補うことができたのだろうと思います。

 電線衝突はずいぶん多い事故で、内臓破裂や大裂傷で即死するもののほか、翼や脚の骨折が多く見られます。翼や脚の骨折は、正常な姿勢で折りたたみ、健康な骨で折れた骨を支える形にして、布ガムテープを細く切って巻き、粘着面どうしを合わせて貼りつけ、約1ヶ月保定します。はじめ、翼を折ったものは胴体へ巻いて保定をしていましたが、鳥がひっくり返って起き上がれなくなるので、現在は片翼だけ、片足だけ、といった保定をしています。結果はまあまあですが、骨折部の完全治癒はむずかしいものです。

 秋はまた捨鶏シーズン。お祭りの景品となったヒヨコが大きくなり、処置に困ったあげく、近くの公園や緑地に捨てる人が多いようです。早朝、大声でトキを告げるようになると苦情が殺到し、観察舎へ持ってくるものが多いのです。小屋の余分もない上、放し飼いにすると、成長した雄鶏はほとんどが人間、それも幼児にけりかかるので、いやいやながら処分することになります。

 厚氷が日中もとけない寒い日が何日も続くと、餌がとれずにふらふらになったダイサギ、コサギが入院してきます。小魚も呑みくだせないほど弱りきったサギには、カテーテルを用いて胃にブドウ糖、ビタミン、抗生物質を流しこみ、いくらか回復してから魚を与えますが、カテーテルが必要なほど弱った鳥は大半が死んでしまうようです。

 鉄砲にうたれ、半矢になったカモが海から届けられるのもこの季節です。このほか、春の渡り直前(3~4月)と秋の渡り直後(8~9月)に病気(原因不明)が発生し、次々にカモやシギがたおれることがあります。




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