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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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7 野鳥病院の10年(「よみがれ新浜」1986年)再録 2  蓮尾嘉彪 

7 野鳥病院の10年(「よみがれ新浜」1986年)再録 2  蓮尾嘉彪


 給餌については是非論があります。ふつう給餌は特定の種の増加につながり、自然に歪みをもたらすことは確かです。これまでいなかった冬のセグロカモメ、50羽をこすドバト軍団、ねぐらを観察舎前にかえたゴイサギなどが、保護区の自然に悪影響を与えたり、ご近所の迷惑となることもないとは言えません。それどころか、セグロカモメが少しずつふえて、ふるさとのアリューシャン列島などでウミガラスの卵をとってしまうことだってあり得るのです。

 しかし今、給餌をやめたらどうなるでしょうか。造成当時の急激な地盤沈下に対応するため、干潟の一部を浚渫した泥で人工的に埋立てられた保護区の自然は決して豊かではありません。おびただしいカモが集まるのは、餌があるからではなく、保護区が安全な場所だからです。事実、周辺で頻繁に工事が行われる昨今、時には冬のさなかにカモの姿が消えて、保護区ががらんとしてしまうこともあります。もし給餌をやめたら、もともと定着していなかったセグロカモメはほとんどいなくなるでしょう。他のカモメ(ウミネコ・ユリカモメなど)も遠くにいる姿しか見られなくなるか、強風の時だけ入る鳥になるかも知れません。サギ類やバンもずっと少なくなるでしょう。ドバトが増えすぎたのは有難くないのですが、観察舎のすぐ前にこれらの鳥がいつも一定数集まっているのは、給餌の効果です。

 観察舎前の幅30メートルの水路は、保護区の海面と護岸堤で仕切られているため、体重が重くて飛び立つのが大変なカモ類は、コガモとカルガモ位しか入りません。保護区へのカモの飛来が不安定なのは、保護区内の環境だけではじゅうぶんな餌の供給ができていないためではないかとも考えています。

 給餌は、野鳥観察舎においでになる方に、ま近で鳥を見ていただくためのサービスというか、ショーのようなもので、そのために続けているといってよいでしょう。でも、本来の保護区の改善計画をおざなりにしている点は、重々反省すべきと思います。


【野鳥病院の四季】

 春から夏、4月下旬から8月にかけて、野鳥病院は一番忙しい季節をむかえます。巣から落ちたり、親にはぐれたヒナたちが、次から次へと持ち込まれるからです。こうしたヒナたちの大半には、日の出から日没まで、1~2時間ごとに餌を与えなくてはいけません。ところが給餌係の二人はそろって早起きが何より苦手。1回目の給餌が7時ごろなので、最後の食事は夜11時ごろになります。

 ヒナが届けられると、まず第一に事情聴取。親鳥や巣に戻せる可能性がある場合は、その場で拾った人と一緒に発見地へ逆もどり。ヒナを育てるのは親鳥にまさるものはありません。ただし、お腹がすいていそうな時は、戻す前にお弁当をそのう(胸のところ)いっぱいに食べさせておきます。ツバメなどで巣がこわれたものは、代用の巣(カップラーメン容器・ザル・箱など)をとりつけるか、粘土で巣を修理してやります。

 どうしても戻せないヒナは、まず体重チェック。ヒナ鳥に限らず、体重が増加または一定に保たれていることが、健康に養われているかどうかの最も確かな目やすになります。

 えさの種類は、親鳥の食性によって調整します。もっぱら植物性のえさをとるハトやカワラヒワには、ハト用配合飼料やアワ玉を煮て与えたり、パンや果物を追加します。ヒヨドリにはトマトとすり餌、スズメにはアワ玉、小鳥用粒餌、すり餌、パン、ミルウォームを主体とし、ビタミン剤を加え、すり餌、ひき肉も与えるという具合です。

 ヒナは動物質が不足するとやせます。植物質やビタミンの不足で骨の発育障害がおこり、脚が腫れたり、悪化すると足や翼の骨が曲がってきます。餌が体に合わないと下痢をすることがあり、急激に体重が減って死ぬときもあります。ちょっとでも様子がおかしかったら、餌を変えたり抗生物質を与える必要があるでしょう。

 よく馴れたヒナは、早めに室内に放し飼いにします。飛ぶ力が十分についたら、朝、窓を開けて自由に出られるようにしてやります。空腹になると部屋に戻り、また自由に出て行くという生活をしばらく続け、徐々に野外へ戻すというのが最も安全な復帰方法です。もっともここのところ毎年猛禽類が入院するため、室内で襲われるものが多く、放し飼いが思うようにできません。

 人に馴れなかったヒナは、自分で餌を十分に拾えるようになってから外に出します。野外で生活させながら給餌ができれば、理想的な独立が期待できます。

 5月末~6月は太平洋を北上して行くハシボソミズナギドリの巣立ったばかりの若鳥が関東付近を通過する時期で、餌がとれずに衰弱したものが次々に入院してきます。ほとんどががりがりにやせ、餓死寸前です。この鳥は塩水に浸したワカサギを日に10~15尾無理に食べさせ(「詰める」と表現しています)、よく肥らせてから、強い風の日を選んで浦安地先から放鳥します。


 

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