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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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62 今春の野鳥病院  蓮尾嘉彪  上 入院数3割増

今春の傷病鳥舎 

入院鳥3割増  蓮尾嘉彪  すずがも通信70号 1991年10月


 この5月、千葉県自然保護課によって傷病鳥舎が完成した。スレート屋根の平屋、鉄骨建、縦9メートル、横15メートルで、治療室、飼料倉庫、敷草置き場等がそろい、東と南面が傷病鳥室になっていて、動物園のように金網越しに外から中を見られる構造になっている。中央に広い廊下が通っているので、雨が降っても、これまでのように合羽を着て仕事をしなくてもいいのが有難い。

 ところがどっこい、いいことばかりではない。いやまあ、今春の忙しかったこと。例年でもこの時期はひな鳥ラッシュで猫の手も借りたいほどなのに(猫はぜひ手を貸したいというだろう。でもひな鳥の面倒をみさせたらろくなことはしない)今年は特別だった。広くなったのが新聞に出るやら、それもあってか動物病院からの紹介も多くなるやら、いつもの年よりずっと多くの傷病鳥が持ち込まれた。


 ちなみに4月から8月の記録をとってみると入院鳥はなんと3割増。もし、例年並みにハシボソミズナギドリの入院が多かったら、もっと大変だったろう。幸いにも、黒潮の流れが変わったためか、今年は1羽も入らなかった珍しい年であった。

 春の繁殖期は傷病鳥扱いのもっとも忙しい季節。その時期に今年は新傷病鳥舎への引っ越し作業が重なったのだからたまらない。未だ、一部荷物の引っ越しや、たな作り、とまり木作りなどやりかけたままでほったらかしてあるものが多い。


 「あのー、これひろったんですけど‥‥」

 今受け入れたばかりのスズメのひなに、とりあえずのえさを詰め込み、記録をカルテ(カード)に書き込んでいると、うしろで声がして、小学生の女の子が傷病鳥舎の入口に立っている。

 「あれっ、またですか?」

 失礼千万な言いぐさだが、ついこういう口調になってしまう。プラスチックの虫かごにおさまっていたのは、今日6羽目の新入患者、巣立ち前後の子ヒヨドリ。ヒヨドリはまだ尾羽がほとんどのびないうちに巣立ち、その後1カ月近くも親鳥に面倒をみてもらう。庭木や街路樹など、人がいるところに巣をかける上、巣立った時にはまだほんとうに小さいので、地面に下りて拾われることが多い。

 かごから出してはかりに乗せると、ついと3メートル程飛んで床に落ちた。

 「どこで拾ったの?‥‥」「いつ頃?‥‥」「そばに木はなかった?‥‥」

 巣立ち子は親に戻すのが一番である。中でもヒヨドリの巣立ち子のそばには必ずといっていい程親が付き添っている。ひなの元気さえよければ、近くに手ごろな街路樹ほどの木さえあれば、ひなをそこに放り上げてやるだけで、あとは親がめんどうをみてくれる。ちょっとおなかがすいていそうなひななら、当面の腹もたせの意味でパンを少し詰め込んでやればなおよい。だから、ひな鳥の場合はまずそういう質問をすることにしている。

 5月から8月はこうしたひな鳥のラッシュだ。ひな鳥の困るのは、なんといってもえさを1羽1羽の口に入れてやらなければならないこと(自分から口をあけて食べる鳥に与える時は「差し餌」、無理に口をあけさせて餌を「つめこむ」時は「割り餌」という)。小鳥の場合、朝7時から夜の8時ぐらいまで2時間おきに、最低7回のさし餌を行なう。


 えさをのんでくれないひなもいる。なにしろ、えさといっても鳥からみればすべて代用食。こんな物は食えないと、与えても吐き出してしまう鳥も多い。がんとして口を開けない鳥もいる。その時は鳥を片手に持って口をこじあけ、餌を詰め込む。そんな時に限って電話が鳴る。

 「野鳥のひなを拾ったんですが、どうしたらいいでしょう‥‥」


 ご自分の家で育ててくれる方の場合は、鳥の種類を確かめて(まるでクイズのようなこともある)餌の種類と与え方を、遠路をおして届けてくださる方には観察舎までの道順を教える。ちょっとのつもりで電話をすると、あっという間に15分以上も鳥を握ったまま話をしていたこともある。こんな時のひなは災難だ。

 ちいさいひなの場合、暖房も考えてやらないといけない。未だ、保温用具もちゃんとしていないので、かわいそうに今年も、裸びなのほとんどを暖めすぎや暖め不足から死なせてしまった。




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