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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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60 鳥の国から  コアジサシくん、しっかりね  1991年10月

鳥の国から  コアジサシくん、しっかりね  すずがも通信70号 1991年10月


 毎年この時期になると、夏がすぎ去り、秋に切り替わるみごとさに驚きます。どんなに暑い日が続いていても、ある日、きっぱりと秋がきてしまうのです。暑さのぶり返しがいくらあっても、たいていはもう季節の逆戻りはありません。

 あたりを見まわすと、赤トンボがいくつも飛んでいます。ススキの穂が出ています。空も真夏の濃いブルーやむし暑いくもり空から澄んだ青にかわり、きれいなうろこ雲やすじ雲を浮かべるようになります。透明な大気の中ではもののりんかくがいっそうくっきりと見えます。夏鳥のツバメやコアジサシは姿を消し、8月最後の週か9月最初の週には、冬鳥のコガモがかならず姿を見せるのです。


 今年はコアジサシのヒナを2羽世話していたので、秋の訪れがこわいほどでした。夏鳥のコアジサシは、9月に入ると間もなく東京湾から渡り去ってゆきます。越冬地がどこだか、正確なところはわかっていないのですが、だいぶ前に幕張埋立地で標識足環をつけられたコアジサシが、たしか9日後にニューギニアで回収されたという例がありました。今年巣立ったばかりのヒナも、もちろん渡ります。それも親に連れられるわけではなく、おそらく若鳥ばかりの小群か、単独で、海上を飛んでゆくはずです。

 

 片貝海岸から生後2週間そこそこのヒナが持ち込まれたのは8月4日。なんでも砂浜に車を停めて泳いでいて、家に帰ってきたら、荷台にヒナがいたのだそうです。たいへん元気なヒナで、おそるおそる8㎝もあるワカサギをさしだしてみると、勇敢にも飛びつくようにして呑みこみました。ヒナの体長は10㎝もないのですから、さすがにたいへんそうでしたが、ワカサギのしっぽの先が口の中に消えて行ったときには、私もヒナもほっとしました。

 養って大きく育てるのはなんとかなりましたが、問題は放鳥のしかた。なにしろ9月には渡るのですから、時期を逸したらたいへん。8月初めからウラギク湿地の干潟に20~30羽ものコアジサシの幼鳥が集まって、親に餌をねだったり、自分でも海面にダイビングして小魚をねらったりしていました。禽舎の中では飛ぶことはできても、魚とりの練習ができません。停空飛翔やダイビングには狭すぎます。

 やきもきしているうちに、干潟のコアジサシはほとんどいなくなってしまいました。おまけに8月下旬になって、木更津からもう1羽の幼鳥が持ち込まれました。道路上で雨に打たれてびしょびしょだったそうです。冬を越させるわけには行きません。春まで禽舎で飼ったら、羽がいたんだり、みずかきに凍傷を起こしたりして、今よりずっと健康状態が悪くなってしまうことは目に見えています。

 何日か好天が続くという予報が出た9月4日。午後は休みだったので、思い切って幕張に持ってゆきました。幕張メッセの臨時駐車場に、今年はコアジサシの大コロニーができていたのです。広大な埋立地の一角、50ヘクタールはありそうな大駐車場で、そこここの水たまりにはウミネコやシギが群れていました。ワカサギのお弁当を無理にのませてから、そっと地面に置くと、まもなく2羽は楽々と舞い上がり、完ぺきな飛び方で飛んでゆきました。

 駅へと引き返す途中で、3羽!!!のコアジサシが頭上を飛ぶのを見ました。あれから1週間、生きていればきっともう渡りの途中。旅の無事を祈っています。


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