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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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4 はじめの10年(「よみがえれ新浜」1986年)再録 3

4 はじめの10年(「よみがえれ新浜」1986年)再録 3


 1978年には利用者が年間3万名に達しました。この年、皇居出身のコブハクチョウのつがいが香取郡から持ちこまれ、前の水路に放飼になりました。この2羽は1982年と1983年に相次いで死にましたが、1982年生まれの若鳥が今でも水路で暮らしています。

 1979年にはいよいよ新館の建設。2月から観察舎は休館になりました。旧館をそっくり土台から持ち上げて動かす曳家ひきやの面白かったこと。新館の工事は基礎から土台作り、鉄骨とりつけとつぶさに見ることができました。その間、多くの人のご協力でUFO島にコアジサシの営巣場を作ろうとしたり(これはみごとに失敗)、苗圃をひらいたり、木を移植したりとやりたかったことに少しずつ手をつけることができました。

 新館オープンは、暮れもおしつまった12月26日。年内開館が決まったのは12月に入ってからで、最後のとっかん工事は大さわぎでした。おまけに野鳥病院のとりつぶし騒動まで加わって、めでたさも中ぐらいどころか、何ともはや、気の重いスタートでした。

 1980年1月の間に、私は3キロ以上やせました(今だったらよかったのに)。現在の観察舎の仕事を二人だけでこなしたわけですし、当時はまわり全部が泥んこ道で、もちろん土足入館。1日が終わると、どのフロアもまるで乾いた泥田のよう。いつでも3つ以上仕事をかかえてかけずりまわっていたので、笛吹きケットルのお湯がわいて、ピーピー鳴りっぱなしで20分、お湯は半分くらいになってしまったなんてことがしょっちゅう。

 2月、市役所の担当課が公園緑地課から農水産課にうつり、職員が2名ふえました。渡井章三館長と、雑務万端ひきうけの頼もしい宮島君江さんです。以後の1980年は、観察舎の黄金時代の一つに挙げられるでしょう。この年のことは、筑摩書房が出してくださった「野鳥観察日記」にくわしく書きました。5月には新浜鴨場の心字池と北池で、セイタカシギの繁殖が初めて確認され、以後6年間、毎年ヒナが育っています。繁殖しているつがい数は2~3とずっと横ばいですが、行徳にすむセイタカシギの数は少しずつふえているようで、1985年秋には29羽も見られています。この年の10月、スペイン国王ご夫妻と皇太子ご夫妻(現 天皇陛下御夫妻)が来所されました。

 1981年5月に渡井館長が異動され、8月に現在の三次史雄館長が赴任されました。この年の5月26日、例年より早く発生した青潮のため、推定40万尾、50トンに及ぶコノシロが一夜で死にました。農水産課の職員が総出で、腐りかけて強烈な臭気を放つコノシロを集めては、南極島に積み上げて片づけたものです。産卵を終え、弱ったコノシロが青潮に追われて保護区に逃げこみ、保護区の中で酸欠水にやられてしまったことから、こうした大量死が起きたとも考えられます。水面に散りしいた桜の花びらのように、死んだ魚が一面に浮いてただよい、ぎらぎらと光を反射している光景は、忘れられるものではありません。

 カルガモのヒナが落ちこんで、上がることもできずに溺死する湊排水機場の遊水池に、救命用のいかだを浮かべたのもこの年です。上陸できる岸辺も島もないこの池では、一片の板切れでも貴重だったらしく、落ちこんだカモのヒナが次から次へと救命いかだに上がって保護されました。約90羽、野鳥病院がカルガモ養殖場に化けました。それでも全体の7割を放鳥できて、ほっとしました。



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