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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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35 よみがえれ新浜 二年半のあゆみ その3  1988年12月

よみがえれ新浜 二年半のあゆみ その3


 もう1つ、思ってもみなかった変化がありました。新池にいつも水が供給されているため、保護区の本土部分の地下水位が上昇したようです。隣接している旧淡水池は、雨水とわずかな上水を水源としている池ですが、ひでりが続くと水位が下がり、中央のビニールシートをひいた部分以外は干上がってしまいます。ところが新池の完成後、底が露出することは一度もなく、この夏の長雨で、とうとうふちまわりまでいっぱいに水をたたえるようになりました。14年前の造成以来、こんなことは初めてです。

 植物の変化も予想以上でした。造成前は新池の予定地はセイタカアワダチソウの草原で、どこをとってもセイタカアワダチソウが圧倒的多数を占め、ヨシやススキがわずかに点在するという状態でした。ところが造成工事で表面の泥や植生がはぎとられた後、地下に残ったヨシが一斉に芽を吹きました。現在はヨシが最優先種、セイタカアワダチソウは樹木のまわりなど、地表がけずられなかった場所で繁っています。ただし、水につからない土手の上などにはセイタカアワダチソウが必ずあるので、放置すればまた優占種になるでしょう。

 面白いのはイタドリで、工事でずたずたにちぎれた地下茎がそれぞれ芽吹き、かえって数がふえました。まるでオニヒトデのようなたくましさです。一方、ウラギク、ウシオツメクサといった好塩性の植物もかなり目立っています。

 水位が上がった旧淡水池では、ふちまわりをおおっていたセイタカアワダチソウが枯れ、一部ではヨシも水におぼれて勢いが弱くなりました。水面が開けたため、今年は例年になく多数のオナガガモ、ハシビロガモが入っています。

 水の滞留を防ぎ、水位を調節するため、池の端に太いホースでサイフォンを作り、以前旧淡水池から引かれていた水路(知る限りでは水が流れたためしはなかった)を掘りなおして、小さな流れを作りました。ここから流れ出る水は本当にきれいで、うっかり飲んでしまった人がいるという話です。ほんのちょろちょろした流れにすぎないのですが、これをつたってウナギの稚魚が上がってきたのを見つけた時には仰天しました。ウナギだけでなくハゼ類も見られ、またおびただしいクロベンケイガニが入りました。逆にオタマジャクシやザリガニがホースを伝って池から出てきました。海に出てしまって、アオサギに食べられたザリガニもいたようです。


 こんな面白い実験ですが、問題もまたたくさんあります。丸浜川は、生物がほとんどいない「死の川」から、「ユスリカやイトミミズがいる、きわめて汚濁が進んだ状態の川」に変わりつつ(よみがえりつつ)あります。しかし、流入してくる家庭排水の量はふえ、質もむしろ悪くなってきました。水車による酸素増加の効果がいつまで続くかという不安はぬぐえません。

 新池では、予想していたように、水質浄化と水鳥の誘致が同時に、同意義のものとしてできることがわかったといってよいでしょう。しかし、勢いよくのびる植物のコントロールはたいへんです。早い話、来年セイタカシギが繁殖できる状態を作るためには、春休みのころ、死にものぐるいで島づくりや草刈りをしなくてはならないでしょう。


 塩分濃度も悩みの種です。浸透にくわえ、新浜鴨場の水質浄化のために導入されている海水が丸浜川に排水されるため、ポンプアップされる水は、時に海水の5分の1くらいの塩分濃度になることさえあります。カエルやホタルを考えなければ汽水でもよいわけですが、淡水に近くないと水草がそだちません。

 でも、解決の手段がないわけではないのです。目下、最悪の状態になっている観察舎玄関前の深みに小さいポンプを入れ、汚れきった底層水を岸に上げてから川に戻す実験をしたところ、みるみるうちに汚濁物質が減りました。また、新池から排水する水が海水と同じくらいきれいなら、その水で新浜鴨場の水質浄化をはかり、塩分を薄めて行くことも可能なはずです。もう少し新池の浄化能力を高めればよいわけです。

 1台の水車から始まった私たちの実験は、もしかしたら、たとえば手賀沼の浄化、東京湾の青潮、あるいはもっと効率のよい水鳥の誘致といった問題解決の糸口につながるものかも知れません。水車の下で見つかったたった1ぴきのユスリカの幼虫が、ザリガニやヤゴの生育へとつながって行ったように。もしそうなら、すばらしいことではないでしょうか。



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