33 よみがえれ新浜 二年半のあゆみ その1 1988年12月
「よみがえれ新浜」ー2年半のあゆみー
「チーッ」
するどい声が聞こえた、と思ったとたんに、るり色の光が目の前を横切り、水面をかすめるように飛んでいきました。カワセミです!岸のアシの穂が風になびき、ウシガエルの子がキュッと鳴いて足もとから水に飛びこみました。
実はこれ、丸浜川の話。ホントです。この秋、カワセミを2回見ました。もちろん、あいかわらず水はものすごくきたないのです。ここ1週間、全面排水をしていないので、水車はまっ黒な水に泡をけたてて回っています。それでも、確かに変化のきざしが見えてきました。「身近な環境をみつめよう」というトヨタ財団の研究コンクールもひと区切り、次の審査を待つばかり。この2年半の間、みんなでいっしょうけんめいやってきた実験の結果をご紹介したいと思います。
丸浜川にうなぎ養殖用の水車を動かしはじめたのは、おととしの5月です。去年の2月にもう2台ふやして、3台の水車がまわっています。
これは、空中にしぶきを上げて、水を空気に触れさせ、酸素をとけこませるためのものです。酸素をふやして、水中の微生物が水をきれいにするはたらきをたすけようというのが目的でした。
丸浜川は、家庭排水と雨水だけを水源とするどぶ川です。たいていは、ものすごく汚れています。雨がふると排水が薄められて、少しはきれいになるはずなのですが、困ったことには行徳はゼロメートル地帯で、降った雨はどんどんポンプ排水しないと洪水になってしまいます。ですから、せっかくの雨水はすぐ排水され、逆に晴れた日には家庭排水が何日も排水されずに次第に黒ずみ、やがてまっ黒に変色して悪臭をはなちます。
まっ黒な水は、酸素がないだけでなく、底泥から硫化水素が多量に発生しているしるしです。硫化水素は、悪臭があるばかりか、強い毒性をもっています。特に海水には塩分の次に硫黄が多く含まれているので、海水の影響があるところでは、水が汚れて酸欠の状態が続くと硫化水素が発生して、泥だけでなく水まで黒くなるのです。浦安の猫実川は、丸浜川よりもっと水質が悪いのに、水がまっ黒にはなりません。海水の影響がなく、また毎日排水されるためでしょう。ただし、ほとんどいつもきついアンモニア臭がしています。
水車“せせらぎ1号”を動かしはじめてから、みるみるうちに、泥の黒みが薄くなったことにおどろきました。また塩浜橋の方からじわじわと上がってくるまっ黒な水が、水車のところを境にしてふつうのどぶ川色になっていることも何回も見られました。酸素がほとんどない家庭排水(およびその水が滞留してわずかな酸素を使いきった状態の排水機場の汚水)には、藻類さえ増殖できないようです。それが水車によって供給された酸素のために、変化しはじめました。
まず、へどろの浮きかすのような藍藻類のユレモが目立ってふえました。ユレモは泥の表面で育ち、泥の上にきたならしい皮のようにひろがり、やがて底からわくガス(か酸素?)の泡に持ち上げられて、水面に浮かびます。バンやコガモなどはユレモのかたまりを食べます。ユレモのかたまりはやがて水に流されて、風下や水流のとどこおるところにたまったり、海に出て行きます。ユレモの炭酸同化作用で、日中は底の水の方が表層よりも酸素が多いこともあります。
ユレモがたまって腐ると、こえだめのようなにおいがします。というより、こえだめのにおいはそこでふえたユレモのせいだったのでしょうか。せせらぎ2・3号のまわりが腐ったユレモだらけで困ったこともありました。
ふえたのはユレモだけではありませんでした。せせらぎ1号の運行開始後2ヶ月、それまで無生物状態だった水車の下で、初めて1匹のユスリカ(赤虫)が採集されました。これは後のゆっくりとした生物回復の最初の兆しだったのです。
うれしいことに、今年の6月以降は全部の測点でイトミミズやユスリカが見つかっています。またカダヤシ、アメンボなども定着してくれたようです。
変化の激しい水質の調査だけではつかみきれなかったこうした好転は、水底の泥水中の汚濁物質の変化と並行していることもわかりました




