32 鳥の国から・水車ニュース 丸浜川でザリガニが 1988年10月
泣く泣くあきらめたパン
台風18号がそれて、今朝はひさびさの快晴。それっとばかり、観察舎のベランダにパンを干しました。段ボール箱に25、たぶん200kgくらいにはなるでしょう。ところが暮れがたになって空一面の黒雲、ぱらぱらと落ちる雨粒。これは一種の残酷ものがたりではないか。とりこんだ箱の重さ。
こんな重い思いをして大事に大事にとっておいた餌用のパンを、とうとう1t以上も廃棄しました。福栄中と南新浜小で毎週とっておいてくださる給食の残りに加え、鳥さんの餌にと多くの方々がくださった善意のかたまりのようなパンです。まちがってもだめにしたくなかったのに、長雨プラス“パン虫”(調べたところ、ノコギリヒラタムシという乾物類の大害虫だそうで、2mmくらいの小さな甲虫です)の大発生。暗くなると、ぞろぞろ、ではなく、しわしわしわという感じで床中にはい出してきて、階下のわが家にぱらぱらふってくるのです。やむを得ずあきらめました。120箱以上のカビつきパンと100万匹以上のパン虫をらせん階段からえっさえっさと運びおろし、リヤカーで何度も往復して、肥料がわりに保護区の草原のあちこちにまきました。来年はセイタカアワダチソウの育ちがよいのでは? ぎっくり腰のおまけまでついて、何ともはや、聞くも涙、語るも涙のお話。
カモが毎日のようにふえてきました。8月中旬頃からサギが数多く見られ、ひさびさにダイサギ・コサギが100羽をこえ、ゴイサギは340羽以上にもなりました。鴨場の繁殖も少し多かったようです。お台場にあったサギのコロニーが消えたそうで、こちらに戻ったものがあるのかも知れません。
楽しみにしている小鳥の渡りはあまり目につきません。“渡り”というからには、鳥の群れがまとまって、南をさして飛んで行く姿を想像される方が多いと思いますが、実際には、鳥たちは地上から目で見えるような高さで飛ぶことは少ないのだそうです。やむをえず逆風をついて飛ぶ時などに目につく程度で、おまけに日中は餌をとり、外敵を避けて夜間に渡る鳥が多いとのことです。昼渡るヒヨドリの群れを別にすれば、これは渡りの途中だな、とわかるような鳥の飛ぶ姿を見たことは数えるほどしかありません。それでも、前の日にはいなかったカモの小群が朝の光をあびて羽づくろいをしているところを見つけては、前夜の出発地は下北かな、それともカラフトあたりかな、などと想像しています。
(「すずがも通信」52号・1988年10月)
1988年10月 すずがも通信第52号
「うそみたい。見てよ、これ」
有さんがさし出した手の平には、小さなザリガニがいました。8月1日、丸浜川の底生動物調査で、測点6(観察舎の駐車場脇の水門のところ)の泥をふるっている最中のことです。
ザリガニなんて珍しくもない、なんて思わないでください。ほかならぬ、このものすごいどぶ川のことなのです。わずか2年前には、全部の測点を合わせてさえイトミミズ1ぴき見つからないことがあったこのどぶ川で、ついに、何と、ザリガニがとれたのです。
丸浜川に小魚が帰ることも、もう夢でもまぼろしでもない現実になりました。ここ1、2ヶ月というもの、気をつけて見るとかならずカダヤシが見られます。餌場の前では、10尾くらいの群れがたいていいくつか泳いでいます。
何が原因であるにせよ、丸浜川はもう死んだどぶ川ではなくなりました。濁った水面を飛ぶギンヤンマやシオカラトンボ、泳ぐアメンボやカダヤシ。わずか3台の水車がこれほど大きな変化をもたらしたとは信じがたいのですが、水車による酸素の供給が大きな原因の一つであることは、まちがいないのではないかと思います。私たちは、本当にものすごいことをやったのかも知れません。いつか、遠くない将来、メダカやザリガニやオタマジャクシが平気な顔で泳ぐようになったらと思うと、どきどきしませんか。
新池(いいかげんに名前をつけないといけないのですが)はきれいですよ。水はまあまあという程度ですが、緑におおわれ、水鳥がいつもいっぱいいて、足もとからカエルやカメが逃げて、いい感じです。今、下池でカイツブリが卵を4つ抱いています。人が近づくと、さっと卵に巣材をかけて隠してから、自分もひっそり水にもぐって逃げます。サイフォンによる排水路のところには、ウラギク湿地から遠征してきたクロベンケイガニがやたらにたくさんいます。
ただし、頭が痛いのは、アシのコントロール。放っておけば、来年は水面もほとんど見えないほど、アシがしげってしまうことは確実。背丈以上にものびた土手の草刈りは、お盆休み返上の田上昇さんのおかげで1回は終わりましたが、もうひざ上まで草がのびました。水の中はまだほとんど手つかず。
まあ、しこしこ、ぼちぼち、やって行くほかないようです。夢に向かって前進するのですから、楽しいはずですよね。がんばらなくっちゃ。




