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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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28 鳥の国から  丸浜川のコガモ  1988年2月・4月 

鳥の国から すずがも通信48号   1988年2月号


 スズガモがいない。スズガモがいないと元気が出ない。このところ、どうもぱっとしない気分です。12月からこっち、1万羽をこえたのは12月24日だけでした。千羽でも、いえ、百羽でも入ってくれればよいのですが、千羽近くの群れが見られたのもほんの数日で、もののみごとにスズガモがいないのです。おまけに例年第2位を占めるヒドリガモも少ないので、保護区全体のカモ(新浜鴨場を含めて)が4千羽そこそこという状態です。まあ、考えてみれば4千羽というのは決して少ない数ではないのですが、何ともさみしい限り。

 スズガモたちは海にはちゃんといるようなので、密猟がなくなって安心できるという理由で、わざわざ保護区に逃げ込む必要がなくなったのだろうと思っています。それにしても、眼前を埋め尽くすカモの大群がいない水面の広さ。


 カモが少ない割にはタカ類はあたり年らしく、チュウヒ、トビ、ノスリなどが入れかわり立ちかわり見られます。小さな白雲を浮かべたまっ青な空の高みに、ゆうゆうと舞うトビ7羽。高度1000m。伊良湖岬を渡るタカはきっとこんな様子だろうと思って見とれてしまいました。


 丸浜川でコガモがさかんに採餌しているのを見ました。ひさしぶりです。さかだちして食べていたのは、たぶん珪藻でしょう。


 ちょっと気分をかえて、野鳥病院の患者さんの紹介をしてみましょう。このところ、旧館二階の研究室兼病室にいる重症患者のトビ君が自分から餌を食べるようになって喜んでいます。これは昨年7月に入院した鳥で、ちょうど人間の脳こうそくのような症状を見せています。意識ははっきりしていて足や翼は動かせますが、全体のバランスがとれず、立ち上がったり、姿勢を保つことができません。それでもけんめいに自分でリハビリをやって、やわらかい干草をしいた病室の中で、一日中ばさばさとはばたいています。そのかいがあったのか、12月ごろから足指でものをつかめるようになりました。そして、1月には餌の魚を渡すとちゃんと受け取ってのみこみ、落としたのをひろうことさえやってのけたのです。体を起こして座っていることもできます。どこまで回復が見られるか、楽しみになりました。

 

 翼を骨折したハマシギとシロチドリが新しく入院しました。いつもだと餌を自分で食べるようになるまで結構日時がかかるのですが、幸いに先輩格のハマシギが3羽います。ふつうは生き餌しか食べないシギ・チドリ類にはミールワームという虫を与えますが、これだけでは栄養がかたよってしまい、健康が保てません。長期飼育のハマシギたちは、金魚の餌を主食にし、シラスやサクラエビなどを時々まぜています。あとからはいった連中を一緒にしたところ、先輩の食べる餌をちゃんと信用したらしく、その日のうちに餌付いてくれました。どちらも翼が折れているので野外には放せませんが、できるだけ居心地よくしてやりたいと思っています。




すずがも通信49号   1988年4月号


 ホー ホペチョ ホキョキョ

 ウグイスが竹やぶでしきりに鳴いています。まだちょっとへたくそですが、鳴きはじめのころにくらべるとだいぶ上手になりました。「ニセアカシアの小道」を歩くと、いろんな鳥のさえずりが聞かれます。メジロ、モズ、ムクドリ、シジュウカラ、そのうちにアオジやツグミ、アカハラなども歌い出すことでしょう。

 ツルシギ(3月9日金魚池で1羽初認)、コチドリ(3月14日ウラギク湿地で3羽初認)。3月に入って鳥たちの春の動きが目立ってきました。ゴイサギが急にふえ(3月14日125羽)、ダイサギ(同7羽)やコサギ(同20羽)も南から到着してきたようです。あざやかなピンクの婚姻色に染まった足をしたゴイサギを3月15日に見ました。もう巣づくりを始めているのかもしれません。

 カモはずっと少ないままで、スズガモが1万羽をこえたのは、1月31日から2月17日までの8日間だけでした。でも、カモの種類はちゃんとひととおりそろっています。今年はふだんあまり見られないオカヨシガモがいつも50羽近く見られます。渋い色調におさえた地味な姿で、「粋」そのもののようなきれいなカモです。大群でいる時は気づきませんでしたが、スズガモが他の種類の中にほんの数羽まじっていると、すっきりした白と黒の羽がびっくりするほどひきたって見えます。カモが少ないのはさみしいけれど、それなりにじっくりと美しさを楽しむことができるようです。これ、負け惜しみかなあ。

 1月末から3月はじめは1年のうちで鳥の餌が一番少なくなる季節。この時期を乗り切れば、草や木の芽は出るし、虫や魚も動きはじめるので、飢餓の季節も終わります。飢餓の時期は、人間の側から見ると、餌場にいろいろな鳥が集まる面白い時期ということになります。観察舎前の餌場では、セグロカモメやゴイサギ、バン、ドバトなどの常連にまじって、今年はツグミ、ヒヨドリ、イソシギ、コサギなどがいつも見られます。前からいついているコサギがひどくいばっていて、新参のうすよごれたコサギの若鳥を目のかたきにして追いかけまわすので、かわいそうな若鳥は魚のアラにもありつけず、パンを拾って食べていました。

 丸浜川で、コガモがいつも見られるようになりました。泥底の藻類をすするようにして食べています。ここ何年か見られなかった光景なので、うれしくてたまりません。でも、コガモやハシビロガモが例年になく多いのは、妙典の蓮田が埋められたためではないかと思うと、複雑な気持です。

 突然寒くなる時は何度かあったものの、今年は結局暖冬で終わるのでしょうか。ニワトコの丸い芽はすっかりほどけたのと、もう少しでほどけるのと、木によって早い遅いがあります。ノイバラは芽というよりもう若葉。オオイヌノフグリやホトケノザ、ヒメオドリコソウなどはあちこちで咲きそろい、カラスノエンドウまでのびてきたというのに、タンポポ類は今ひとつ。どうもちぐはぐな早春です。でも沈丁花のかおりとウグイスの歌があれば言うことはありません。あとは、新しい池にツルシギが入り、コチドリが巣を作ってくれればいいのですが。




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