26 鳥の国から キャッツ・純白のイソシギ 1987年8月・10月
すずがも通信46号 1987年8月号
このところ、わが家の猫どもはもっぱら“キャッツ”になっています。猫どもだからいつでもキャッツ?いえ、2ひきの猫を1本のひもの両端につないでおくことをわが家ではキャッツと呼んでいるのです。この時期、あたりはひな鳥がいっぱい。日中に猫を放しておこうものなら次々にスズメの子が犠牲になってしまいます。まっ黒なモトメスのススムも茶白のオスのボンドも年期の入った猟猫で、ある晩など、通用口のトイレの窓からストンととびおりてきたボンドが、いつものように鳴いてあいさつをしないので振り向くと、猫とゴイサギの顔が並んでいてびっくり。何で家の中にゴイサギがいるのかとふしぎに思ってから、ボンドが首をくわえて運んできたのに気がつきました。ほとんど無傷だったので、2日後に放してやれたのは不幸中の幸い。
そんなわけで、繁殖期には猫をつなぐことにしているのですが、つながれた猫はいとも哀れな声で鳴きわめくのです。ところが、ふと“キャッツ”にしてみたところ、どちらも何となく納得してしまったらしく、おとなしく連れ立って歩くようになりました。意見が一致しさえすれば、割合自由に動けます。どこかにひっかかったり、意見が分かれると、そこで止まってふて寝しています。いずれにせよ、鳥たちは安全というわけ。
餌場の池に、ウシガエルとアマガエルがすみついて、毎晩しっかり鳴き立てています。7月9日の夕方、主人がカエルの卵を見つけて大喜びしていました。径2ミリくらいの小さな黒い卵が1000粒以上も水に浮いています。ウシガエルの卵でした。いっぱいおたまになってくれるといいのですが。
養魚用水車、せせらぎ1号のフロートの上に、こともあろうにバンが巣を作りました。水位が低く、しぶきがほとんど上がらない時に巣を作り、卵を3個うんだところで雨。プロペラがはね上げる滝のような水しぶきにうたれて、やむなく放棄したようです。巣があることがわかっていたら、プロペラの片方を止めてやったのに、残念。
猫実排水機場付近のしゅんせつ工事でこのところずっと丸浜川の水位が低く、泥底が露出しているためか、イソシギやコチドリ、ハクセキレイがいつも見られます。イソシギのヒナも初めて見つかりました。
ムクドリやスズメのヒナがやたらに多い割に、カルガモやキジ、バンなどのヒナはさっぱり。セイタカシギも、今年は1羽もヒナが巣立たないまま、鴨場から姿を消してしまいました。わずかな救いは、サギがいくらか去年より多いことだけ。でも、セブンイレブンから観察舎の駐車場に向かう途中のとてもよく見えるところにバンの巣があって、今のところ順調です。この号が印刷されるころにはヒナがかえっているはずなのですが。そうそう、ヒクイナが6月中旬にしばらく鳴いてくれましたっけ。
飛べるようになったコアジサシのヒナたちが干潟に集まって、親鳥が餌の小魚を運んでくれるのを待っています。来年もこうした家族の暮らしが見られますように。望むべくは、今年よりいくらかでも多く。
すずがも通信46号 1987年10月号
虫のオーケストラが最高潮です。8月中にはほとんど耳につかなかったカンタンやマツムシが、9月に入ったとたんに一斉に羽化したらしく、例年にないほどにぎやかに鳴き始めました。小柄なカネタタキは室内のそこここで落ちつきはらってチンチン鉦をたたいています。台所のすみで鳴き立てているのはハラオカメコオロギのはずなのですが、人目につくところに出てくるのは、奇妙なかっこうの頭をしたミツカドコオロギばかりです。
待望の新しい池の造成があっという間に無事に終わり、思った以上に順調に水がたまり、予想通りに水の浄化が進み、予想通りに鳥が入りはじめ、というようなことをずっとチェックしたり、手を入れたり、それに何より面白くてたまらず毎日見に行ったりしているので、どうも鳥さんとのつきあいがおろそかになりがちです。それでもカモたちはきちんと渡ってきてくれました。コガモ:8月30日1羽、ハシビロガモ:9月5日1羽、オカヨシガモ:9月6日3羽、ヒドリガモ:9月13日1羽、オナガガモ:9月13日12羽、マガモ:9月5日3羽。暑さもようやく終わり、いよいよ本格的な秋がはじまったようです。
涼しくなったとたんに、急に体が軽くなりました。この夏の熱帯夜には、さすがに音を上げたものですから。でも、てきめんに青潮が始まりました。水門の近くにサギやウミネコが集まるので、すぐそれとわかります。酸欠でふらふらと水面近くに浮き上がってきた魚を鳥がねらうのです。魚や貝の被害が少しでも少ないようにと祈りたい気持。
6月に換羽して、♀とおなじ地味な羽色になっていた入院中のオシドリが、いつの間にかきらびやかな繁殖羽に着替えました。6月の換羽は2週間ほどでしたが、今度は3週間くらいかかりました。渡ってきたカモたちは、どれもまだエクリプスと呼ばれる雌と似た羽色のままです。このオシドリは羽がすり切れていただけなので、仲間がいるところに放してやろうと思っています。
夏鳥のツバメやコアジサシは、この一週間の間にほとんど姿を消してしまいました。南の越冬地をめざして旅立ったのでしょう。ところが、9月15日の朝、香取からツバメの若鳥が入院しました。「翼を折っているかもしれない」と言われてぞっとしながら手にとって調べてみると、片方の翼の先が、クモの糸で背中の羽にねばりついていました。ねばりをとってカーテンをひいた室内で放してみると、幸いにちゃんと飛べたのです。たっぷり餌を食べさせ、環境庁の足環をつけて放鳥しました。
9月14日から、体全体がまっ白なイソシギが1羽見られています。大きさや飛び方、下りた時の尾のふり方からイソシギだと思うのですが、しみ1つない純白色、くちばしはオレンジ色、目は赤という典型的なアルビノ(白化個体)です。16日には新しい池に入っていました。きっと吉兆に違いないと決めました。
ニセアカシアの葉がすっかり黄色っぽくなりました。ススキの穂がゆれ、セイタカアワダチソウのつぼみが色づいています。マテバシイのどんぐりは、もう盛りをすぎました。かけ足の秋です。




