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鳥の国から  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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25 鳥の国から  1987年4月・6月

鳥の国から  「すずがも通信」43号 1987年4月


 おとなりのアンテナの上で、モズがくちゅくちゅと小声でさえずっています。しばらく聞いていると、ギョギョシ、ギョッ、ギョッとオオヨシキリのような声で歌いはじめました。毎年来ている芸達者な雄のはずですが、どうもあまり真似がうまくありません。

 ツバメが来ました。保護区での初認は3月20日。ツルシギが3月6日、コチドリは3月15日(12羽)、暖冬の割には、春告げ鳥たちの到着は少し遅めです。でも2月17日にアオアシシギが姿を現わしました。春と秋に通過する旅鳥としてはずいぶん早い記録です。国内のどこかで越冬していたのでしょう。

 この冬は珍しくオオハシシギ2羽とアカアシシギ1羽が冬を越しました。3月22日の観察会では、北池でこの3羽とセイタカシギ12羽、ツルシギ1羽という豪華な群れを一望して、にんまり。シギといえば、3月中旬になってハマシギの数がふえ、300~400羽が一斉に飛ぶ光景が毎日のように見られます。

 堤防にずらりと並んだセグロカモメの中に、きまってオオセグロカモメが1羽まじっています。慣れるとひときわ濃い色ですぐわかります。週に1、2日、シロカモメが見られますが、こちらは淡灰色のスーツに純白の翼端が特徴。それにしても、ただのカモメの少ないこと。

註:ただのカモメ カモメ類の中には、「カモメ」という種類がいます。いろいろな種類をひっくるめて一般的な総称としての「カモメ」と紛らわしいので、わざわざ「ただのカモメ」「ただカモメ」と呼ぶことがあります。


【貝に足をはさまれたコサギ】

 3月21日のこと、入船中学の生徒さんたちが4、5人、おまわりさんと一緒にコサギを運んで来られました。見ると足指をカキにはさまれています。カキは大きくて重たい上、ふちがぎざぎざで、コサギの指はほとんどちぎれそうになっていました。ドライバーで貝を少しこじあけて外してやり、折れた指を保定しましたが、コサギは案外元気で、がつがつ餌を食べています。貝に足をはさまれる事故もけっこうあるものですね。


 梅、沈丁花、桃、柳、レンギョウ、ニワトコ、柊南天、水仙、オオイヌノフグリ、セイヨウタンポポ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、ナズナ、椿、まだまだいっぱい。みんな今開花しています。枯草の根もとには緑の芽がずんずんのびて、このまま新緑になだれこみそう。『およそ自然は時間を浪費しない』

 それでも黄昏どきに花の香がただよい、コウモリがひらひらと飛びかうのを眺めると、春宵一刻値千金がしみじみと感じられるこのごろです。



「すずがも通信44号 1987年6月

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オオソリハシシギ“ブーム”


 冬鳥のカモやカモメたちが1つ、また1つと姿を消して、水面はすっかりさみしくなりました。愛嬌もののコアジサシだけが、目のさめるような小気味よいダイビングを見せてくれます。上野からくるカワウの若者たち、わずかばかりのサギ、居残り組のスズガモなどが主な顔ぶれです。

 かわって目立つのがカニさんのダンス。はさみの白いチゴガニがおいっちに、おいっちにとリズミカルにはさみを上下する姿の楽しいこと。チゴガニしかいないと思って望遠鏡をむけたら、しましまのはさみを持つコメツキガニも結構まじっていました。チゴガニの腹はトルコ青、コメツキガニは赤紫です。鳥が近づくと、さーっとほうきではいたように巣穴に隠れます。


 4月、“オオソリハシシギ・ブーム”がありました。“セイタカシギ、大空をとぶ”などの写真絵本で有名な作家の国松俊英さんが書かれた“小さなひがた”という作品が、小学4年の国語の最初にあるのです。谷津干潟のオオソリハシシギが出てくるので、4年生のお友だちやご父兄の方々から、“オオソリハシシギは見られるでしょうか”という問い合わせが相次ぎました。遠足が1件、クラス単位での見学が1件。ところが、ところが、4月中は1羽のオオソリハシシギも見られなかったのです。谷津干潟には100羽以上もいるというのに。穴があったら、カニさんみたいに入りたい! でも、教科書で干潟や渡り鳥のことが取り上げられるのは、すばらしいと思いました。保護区の干潟にもっと生物がふえれば、オオソリハシシギだってどっさり見られるようになるはずなのですが。


ミジンコばっかり?


 スイカズラ、ノイバラ、トベラと初夏のかおりが勢ぞろい。新緑のここちよい匂いや刈ったばかりの干し草の匂い、これでどぶ臭ささえなければねえ。でも、まあ、聞いてください。捕虫網やポリ袋を持った小学生の一団が、先生に引率されてぞろぞろと通りすぎました。「先生、メダカなんかいなかったよ。ミジンコばっかりじゃない」こどもたちはちょっとがっかりしているようでしたが、これ、実は丸浜川でのこと。そりゃ、メダカはまだ無理ですよね。何たって、どぶなのですから。でも、ふだんの真っ黒な水を見慣れた目には、ミジンコがいることだけでもとてもありがたく思われました。


くるくる回る水車、その先には


 ウィスコンシン大学から来られたマイクさん。国際ツル財団のスタッフです。「あのプロペラみたいなのは何ですか」貧弱な英語力をしぼりだして、酸素入れる、生物そだつ、浅い池つくる、汚れた水入れる、鳥、くるはず、といった調子の説明をしたら、「マジソン(ウィスコンシン大学のある市)で一番シギが多いのはねえ、汚水処理場だよ。何しろぼくは珍しいエリマキシギまで見たんだから。ちょっと臭いけれどね」

 汚水を導入して湿地をつくり、水の浄化と水鳥の誘致を同時に実現しようという計画を説明するのに、ふつうは最低でも30分はかかります。わずか数語の説明でわかってしまったマイクさん。アメリカと日本の違いを痛感しました。でも、どちらかというと、きっと日本の方が汚水処理技術がはるかに“進んで”いて、一般人の手のとどかない、目にふれないものになっているためだろうとも思いました。谷津干潟などは、干潟自体がきわめてすぐれた汚水処理場ですものね。そう言ったら怒られるかしら。






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