18 前段 その9 1985年12月
18 前段 その9
すずがも通信35号 1985年12月
【障害物を越えるスズガモ】
例年になくスズガモが早々と入ってきました。10月26日・3万羽以上、同28日・7万羽前後。10月中に万をこえたのは初めてです。東京湾におちついたところで猟銃に追われて避難してくるという例年のパターンを破って、今年はまっ直ぐに保護区に集結したようです。
まだ寒さが厳しくないので、朝帰りの壮大な光景を見るには今が絶好のチャンス。だいたい6時前後に主群が入ってくるようです。塩浜岸壁にぜひお出かけ下さい。ただし雨天中止。雨の日はなぜか入ってきません。
去年までの飛行ルートのま正面に高圧線ができて、どうなることかとさんざん気をもんだのですが、しっかりと回避しています。去年はいったん舞上がった群れは下北岬~千鳥町の間で90度ターンして、50mくらいの高度で出ていっていました。低い時は水しぶきがふりかかるほど。でも今年は90度どころか完全にUターンして観察舎前から上空を西にむかい、行徳高校付近でもう一度向きをかえて海に出るようになりました。高度もはじめのうちは100~200m近くまで上がっていました。今は慣れたためか、100mかそれ以下で電線の上を通過しています。カモにとってはよけいな手間がかかって大変でしょうけれど、夕方早めに飛び立つ時など、見ている人間にとっては実にみごとな大ページェントになります。京葉線の高架に始まって高圧線、湾岸道路と何重もの障害物を越えて、せまい保護区の水面にわざわざ入ってきてくれるスズガモたち。
冬鳥の到着はやや遅め。暖かいせいか、秋の渡りも11月半ばまで続いたようです。
<冬鳥初認>
ツグミ 10月21日 *そのあと一向に見られず
ジョウビタキ 10月19日
アオジ 10月20日
ホオジロ 11月8日
ウグイス 10月26日
チュウヒ 9月26日
ハイイロチュウヒ 9月15日
オオハシシギ 10月19日より時々
アカアシシギ 11月3日より時々
オオタカ 11月10日、11日 *いずれも1羽
【にぎわう野鳥病院】
例年は9月になると野鳥病院がだいぶ手すきになるのですが、なぜか今年は月30羽のペースが一向におとろえず、もうしんどいの何のって。11月11日には、前日に軽井沢と秩父の山中で保護されたオオミズナギドリ(!)各1羽が入院してきました。若鳥らしく、特に「チチブ君」(♂)はなかなか人なつこくてかわいい、でも「おカルさん」(♀)はくいつくのだ。
この他、やたら人を敵視してくいついたり翼でなぐるスズガモ2羽もいるし、ウミネコは6羽もたまったし、ダイ・チュウ・コ・ゴイとサギの見本がしっかり2羽ずついるし・・・・。脚弱症になってしまったサシバ2羽には手製の電気ストーブ、翼をいためたアジサシ2羽にはフロアヒーターをあてがって、寒さをしのがせようとしています。
10周年記念特集号のまとめが進まないよう~! バイトさんでもボランティアでも可。助けてくれえ! SOS SOS!
【スズガモ軍団通行止め?その後】
保護区と東京湾の間にあたる塩浜2~3丁目にかけて、来年開通予定の国鉄京葉線沿いに高圧鉄塔が建てられたのは今年の6月です。みるみるうちに、にょっきりと立ち上がった鉄塔を見てびっくり仰天。このままでは東京湾へと往復しているスズガモの飛行ルートが通行止めになるか、多数の鳥が衝突死するに違いない、何とかならないか、と泣きついた結果、東京電力の手で目印のリングが付けられたことを報じました。7月中に電線の仮張が終わって下旬には完成し、更に8月はじめにリング取付作業が行われました。細い避雷線1本と6本の送電線に各1人ずつ、計7人の作業員がぶら下がり、ちょうど手錠のような形をしたリングを1個ずつはめて行きます。全長1.9km、約80cmごとに黒いリング(本来は着雪防止用のものだそうです)、黒リング5個につき蛍光色の黄色リング1個(反射テープが巻いてある)が規則正しく取付けられました。まずはめでたし。
ところがこのリング、0.5~1km離れた観察舎からは、望遠鏡で必死に焦点を合わせてもなかなか見えません。慣れてくると、ところどころに黒いしまがあるという感じで見わけられますが、思ったほど目立つものではありませんでした。黄色リングも黒く見えますし、反射テープの方は、ま下からサーチライトで照らすと確かにキラキラ光るのですが、ちょっと角度を変えると見えなくなります。カモがめいめいライトをつけて飛ぶか発光すればよいわけですが、下からの光は横からは見えず、反射テープの効果も期待できませんでした。
し・か・し、しかしながら、スズガモの大群が例年になく早々と保護区に入るようになって1週間ほどたった11月2日のこと、朝からしとしとと降り続く雨で利用者も少なく、ひまができたのを幸いに見に行って驚きました。死体が1つもなかったのです!スズガモに限らず海から入ってくる鳥はいやおうなしにこの高圧線を越えなくてはなりません。できてから日が浅く、鳥が慣れていないこともあり、あちこちに死体がごろごろしているに違いないという予想が、うれしいことに完全に外れてしまいました。全延長ではなく、盛んに工事用の車が往復している日之出町寄りの0.7kmをのぞいた1.2kmを歩いたのですが、本当に1羽の死体もみつかりませんでした。高圧線の下はだいたい空地で草が生えたところもあり、一部は道路を隔てて日通や北越製紙等の倉庫などが並んでいます。
強い南東風が吹いた10月13日、明らかに電線衝突と思われるウミネコが1羽、この日通から持ち込まれました。これまでのところ、犠牲者(鳥)はこの1羽だけです。
今年の8月から11月19日現在までの約3ヶ月半で、電線衝突事故と思われる入院鳥は死体を含めて22羽(この間の入院鳥は全部で120羽)、そのうち新浜鴨場のすぐ前を通る幹線の大送電線に11羽がぶつかり、行徳駅から海へのびる大通りに沿った線でも2羽、また猫実川沿いの線にも2羽が衝突していると思われます。位置、延長距離、電線の数や高低等の影響もあるわけで、いちがいに比較するのもどうかと思いますが、新設の送電線で3ヶ月半に1羽しか衝突していないというのは確かにりっぱな記録です。
1973年12月に寺田一哉氏が調べられた結果では、江戸川放水路付近の高圧線直下で、約1ヶ月間に19羽、やや離れた位置で7羽の死体を記録したという例がありますし、1981年1月4日には日之出町付近で1晩に17羽が衝突し、13羽は即死したという例もあります。
こうしたことから考えると、このリングつき電線での衝突事故はかなり少ないと言ってもよいようです。
東京電力では、確実な効果が期待できるのなら、周囲の他の高圧線にもリングを取り付けることを検討してもよいと話しておられました。実現を切に望みます。
註:下北岬~千鳥町=保護区の本土が、海水域に突き出た形になっている場所。青森県下北半島に形状が似ていることから、こう呼ばれている。千鳥町は市川市にある地名。保護区の東側にあたる。
10周年=千葉県行徳野鳥観察舎(1976年開館)の開館10周年のこと。




