初体験
僕は走っていた
空も海も燃えて、人が叫び悲しみ
そして死んでいく
そんな混沌が迫り来る。
ひたすらに走って走って、どこに足を着いているのか、どこを見ているのか
何もわからずにただ足を動かしている。
そしてついには疲れ果てて
疲れ果てて
――――――――――――――――――
「夢…かぁ」
汗びっしょりだった。
着ていたTシャツは水たまりで転んだかのように濡れていて
恥ずかしい事に下も濡らしてしまっていた。
「…」
まあ、いい。誰もいないし洗って…
「おや、起きたのですね。あらら寝汗ですか。それに、いえ。
直ぐに新しい服と変えましょう。脱いで下さい」
エタフィ…だっけか…君…!
なんとも言えぬ感情を抑えつつ服を脱ぎ、手渡した
「向こうにシャワールームがあります。私もしばしば汚れ落としに使っているので機能しているはずです。」
促されるまま
岩壁の部屋にあるいくつかのドアのひとつを開けた
シャワー、という物は知識では知っている。
上についているヘッドから水が出てくる物だ
実際には初めてだから少し緊張する
「つめっ」
最初の数秒、ひんやりした液体が体を包み、叫びそうになったが何とか堪えた
するとみるみるうちに暖かいお湯に変わり、それが頭皮から足先までをじわりと通り抜けた
「うぁ…」
言い表せない弛緩の中、目を閉じると、とても心地がよかった
―――――――――――――――――
シャワールームから出て、エタフィに話しかけると、新しい服を用意してくれていた
「これはナムフ様に似合います!」
――エタフィの膨大な情報に照らし合わせたので間違いないです!
と無機質な声ながら感情のこもった声で僕に服を着せるエタフィ
少し引いた。
「うんいいね。服の知識は余りないけど、これ動きやすくていいよ」
さっきまで着ていたのは茶色のゆったりした服だったが、今は黒色の柔軟性の高い服だ
腰のあたりにエタフィに似たイラストが刺繍されているあたり、自作だろう。
「そうですか、そうですか!それは何よりです!」
心做しか胸を張ったような格好を取っている。
性格ブレてないか。
「落ち着いた所でエタフィ、聞きたいことがあるんだ。少し話せる?」
そう、僕が何者なのか、ここはどこでこれからどうするのか。
聞くことは沢山ある。
「分かりました。『オコタエデキル範囲』でお答えしましょう。エタフィに出来ることならばなんでも協力します」
エタフィは腕を横に上げて上下に振った
何かの合図だろうか。
それと同時に、シャワールームの扉の前まで行き、手招きする
「こちらです。この部屋には人間用の椅子もございます。普段は使用していませんが、ナムフ様が落ち着くのには最適でしょう。」
そういうとロボットはドアの向こうに消えた