第6話 オアシス2
前回の続きです。1話にしようとしたら微妙な長さになってしまったので2話に分けました。
私は、このとき生まれて初めて特殊スキルを使った。
…いや、使おうとした。
何でこんな言い方をするかと言えば、使えなかったからだ。
受けたものの体を任意の時間まで巻き戻すことが出来る魔法、『時間遡行の風』。
おじいちゃんも知らなかったその魔法の効果は絶大で、代償がどんなものか想像もつかないので使用は禁止されていた。
「何でよ…何で使えないのよ…!」
私の魔法は攻撃に特化していた。だから助けられる魔法はこれくらいしか無い。
私は彼に泣きついた。
「お願い。死なないで…」
何時間経っただろう。私は気が付いたら眠ってしまっていた。
私は慌てて彼の容態を確認した。
「ほっ…」
彼は生きていた。魔力量も変わらず、呼吸の細さも変わっていなかったが。まるで、誰かがわざとそうさせたかのように普通ではありえない状態で、生きていた。
私はこの日から彼の世話をするようになった。
朝、彼のベッドの横で起きると、森の見回りに出掛ける。
「クラッシュ、おはよう」
「おう。おはようさん」
驚くべき事に、この森にはトレントと呼ばれる魔物も住んでいた。トレントは、魔力の濃い場所で多くの魔力を吸う事で自我が芽生えた木である。そのトレントが、この荒野の中に何本もいるのである。
「何か変な出来事はあった?」
「いんや。平和そのものだな」
彼らは自らの住処を守るため、外の監視を買って出た。クラッシュはトレントの中でも気さくで、話しやすい木だ。
「そう。ならよかったわ。引き続きお願い」
「言われなくてもやるさ…それで、俺達を作った人間はまだ目を覚まさないのか?」
「…」
「あーあ、何やってんだか。ディアはこんなにも想っているってのによ」
「おっ、想ってるってなによ!ただ、恩を返すってだけよ!もう!急に何てこと言うのよ…」
私は顔が赤くなるのを感じた。それが何を意味しているのか、私は分からなかった。クラッシュが知った様な口調なのが何かとても悔しかった。
「そうかい、じゃあそう言う事にしといてやるよ。…そろそろ見張りに戻るとするか。じゃあな。」
そう言ってクラッシュは去っていった。
そうして朝の見回りを終えると、部屋に戻り、彼の世話を再開する。
…と言っても、私が彼に出来ることは殆ど無い。せいぜい、額の上にちょっと冷える葉っぱを置いたり、自分の魔力を少し分けてあげたりするくらいだ。魔力は分けてあげたとしても精霊のように外の魔力を吸収する事が人間には出来ないため、本当に気休めでしか無い。
「いつになったら起きるのよ」
私は穏やかな顔で眠っている彼の頰をつついた。
「起きたらただじゃおかないんだから」
そして彼の胸板に飛びついた。
小さな鼓動を感じる。ここまで近づかないと分からないほど微かな彼の魔力は、あの時と変わらず綺麗で暖かかった。
次回から八雲視点に戻ります。